第50話 寝取られたということ
中学校一年生の夏休みがやってきた。
休みに入っても俺は忙しい。
子会社の社長になった小学校六年生での長期の休みと同じく、平日の昼間は仕事で、夜は勉強をするという生活。
土曜日は、自分の部屋で一日中勉強した。
日曜日の昼間は、新作が発売されたので購入した、「かわいいキャラクターが多数登場するぼのぼのとしたゲーム」を紗淑乃ちゃんと一緒にプレイした。
そして、夜は自分の部屋で勉強をした。
紗淑乃ちゃんは、中学校一年生の夏休みになっても、以前と行動は変わらない。
毎日必ず俺の家に来て。
「定陸ちゃん、好き」
と無表情で言ってくる。
ただ、変わったところもある。
以前よりもさらに美しさが増しているというところだ。
紗淑乃ちゃんの白いワンピース姿に俺の心はメロメロ。
でも、依然として、その気持ちは恋に発展することができない。
自分でも何をやっているのだろうと思ってしまうのだが……。
その七月下旬のある日の夜。
俺は寝ようとして、ベッドに横たわっていた。
次第に眠くなってきて、眠りにつこうとした瞬間。
俺の心の底から、前世の記憶が湧き出してきた。
今まで湧き出したことのなかった分だ。
なんと、今までは、概略しか心の底からは沸き上がることのなかった、
「恋人を『寝取られた』」
時の具体的な記憶が湧き出してきたのだ。
俺は、たちまちの内に大きな苦しみに襲われた。
それはまさに七転八倒といっていいぐらいの苦しみ。
俺は今までも、寝取られたという言葉を聞いただけでも苦しい思いがしていた。
恋人を他の異性に取られるということは、心に大きな打撃を受けるものだということは認識をしていたのだが、なぜそこまでの苦しみが襲ってくるのかということは、具体的なことを思い出せなかったのでわからないところはあった。
しかし、今は、はっきりと認識した。
前世の俺の幼馴染で恋人だった女性がイケメンの同学年生の虜になり、俺のことなど見向きもしなくなる。
その女性は、俺と経験するはずだった、キスや二人だけの世界をそのイケメンによって、あっという間に経験してしまった。
しかも、俺の目の前でキスをしてその仲睦まじさを俺に見せつける……。
これが、俺が寝取られた時の具体的な状況だったのだ。
イケメンに寝取られた俺が心と体を壊し、あっという間に病状が悪化してこの世を去ったのも、これならば理解ができる。
俺はその夜、なかなか眠ることができなかった。
あまりにも衝撃的なことだったからだ。
今までこの記憶が湧き出してこなかったのは、俺が思春期を向けていない子供だっらからなのだろう。
最近、俺も思春期を迎えてきた。
男女についての知識もだんだん身につけてきたところで、記憶が湧き出す態勢が整い、この日に一気に湧き出してきたということなのだろう。
それにしても、寝取られたということが、ここまで想像のできないほどの苦しいことだったとは……。
俺はそれからも苦しみ続け、どうにか眠ることができたのは、午前三時過ぎだった。
そして、午前六時には目が覚めた。
睡眠時間は三時間ほど。
でも、今日もこれから会社にいかなくてはならない。
心の苦しみは目が覚めるとともにまた俺に襲いかかってくるし、また、眠さもあったが、社長である為、心を切り替えなければならない。
俺は、顔を洗い、心を切り替える努力を一生懸命行った。
その結果、何とか仕事に行ける態勢になってきた。
すると、今日の朝も、紗淑乃ちゃんはやってきた。
白いワンピース姿は今日も素敵だ。
しかし、紗淑乃ちゃんの、
「定陸ちゃん、好き」
という言葉は耳に入ってはこなかった。
その時、心の苦しみがさらに襲ってきたためだ。
俺は紗淑乃ちゃんを見送った後、気持ちが悪くなって、倒れそうになった。
しかし、それでも俺は会社に行かなくてはならないと思ったので、心と体を何とか立て直そうと一生懸命努力をした。
その努力の結果、俺は心の苦しさを何とかこらえることができるようになり、会社に行くことができた。
そして、仕事をこなすことができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます