第49話 伸時ちゃんときぬなちゃん

 一方、伸時ちゃんときぬなちゃんはと言うと……。


 伸時ちゃんは中学生になると、中学校のサッカー部に入部した。


 有望な新人が来たということで、部での期待は大きい。


 それに対して、きぬなちゃんは料理部に入部。


「伸時ちゃんを料理で支えるようになりたいの」


 というのがきぬなちゃんの言葉。


 伸時ちゃんは、入部してからすぐにレギュラーに抜擢された。


 普通であれば。同学年生や先輩に妬まれる可能性が高いところだ。


 しかし、伸時ちゃんはその持前の明るさと爽やかさで、逆に愛されるようにになっていく。


 休日に伸時ちゃんのサッカーの試合がある時は、小学生の時と同じく、応援に行きたいと言っていた。


 伸時ちゃんの方も、きぬなちゃんが応援にきてくれるのはうれしいと言っている。


 こうしてみると、伸時ちゃんときぬなちゃんは順調に愛を育んでいるように思われるのだが……。


 伸時ちゃんは、俺から見ても、常軌を逸するほどの「鈍感さ」を持った男子だと思わざるを得なかった。


 イケメンであり、サッカーで活躍している伸時ちゃん。


 女子にモテていて、小学校五年生の頃から既に何人もの告白を受けていたようだ。


 しかし、いつも、


「俺みたいにサッカーにしか興味がない人間のことが好きになることはありえないと思っているんだ。だからその告白を受けることはできない。ごめんね」


 と言って、そうした告白をすべて断っていた。


 そういう告白の断り方をするものだから、告白をした女子たちの方もあきらめられない。


 また、告白のチャンスを狙っているとのことだ。


 きぬなちゃんは、伸時ちゃんのことが幼稚園から好きであり、その想いは小学生になると恋に発展していた。


 そのことを俺は理解していたのだ。


 ところが、伸時ちゃんはその気持ちに全く気がつかない。


 きぬなちゃんは、小学校四年生の時、俺に対して、


「伸時ちゃんとは幼馴染なので、直接わたしが伸時ちゃんに告白して、もし断れられた場合、その関係が壊れてしまう可能性があると思うの、それは一番嫌。だから、直接は告白できないけど、機会がある度に、伸時ちゃんに対して、恋をし始めていることをそれとなく伝えていこうと思っているわ。そして、少しずつ伸時ちゃんの心をつかんでいきたいと思っているの」


 と言ったことがある。


 その話の通り、きぬなちゃんは、伸時ちゃんに対して、恋をし始めていることをそれとなく伝えていた。


 ただ、この話を聞いたのは、小学校四年生の時だったのだが、俺の知る限り、既にそのアピローチは、小学校一年生の時から始まっていた。


 それは、伸時ちゃんに対する女子たちの告白が始まってからも続いていた。


 きぬなちゃんは、伸時ちゃんがサッカーにしか興味がないことを理解していた。


 その為、他の女子に心を奪われることはないと思っていたのだ。


 実際、伸時ちゃんは、女子の告白を全部断っていたので、それをきちんと予想できたきぬなちゃんはさすがだと思う。


 ただ、伸時ちゃんは、きぬなちゃんがアプローチを重ねてきても、そのきぬなちゃんの想いに全く気がつかないままだった。


 普通だったら、いくらなんでも小学生の間に気づくものだろうと思わざるをえない。


 そうしている間に、他の男子がきぬなちゃんの心を虜にして、恋人として付き合いだすかもしれない。


 その可能性だって十分ありうるのだ。


 実際、俺も前世で、恋人だった幼馴染を寝取られてしまったのだから……。


 俺はそれで心と体が壊れて短い人生を閉じることになった、


 伸時ちゃんは、前世の俺よりも心は強いと思うのだが、それでもきぬなちゃんが他の男子に取られれば、平然としてはいられなくなり、後悔をするはずだ。


 もし、その時は平然としていられたとしても、その後必ず後悔するこことになるだろう。


 これは伸時ちゃんだけではなく、きぬなちゃんにも言えることだ。


 伸時ちゃんが他の女子に取られてしまえば、今度はきぬなちゃんが後悔をすることになる。


 その可能性は今の伸時ちゃんの状況からすれば、限りなく低いと思うので、俺はきぬなちゃんが他の男子に取られてしまうことの方を主に心配しているのだが、低い可能性とは言ってもありうることなので、こちらの方も心配しているのだ。

 

 俺としては、どちらも何とか防ぎたい。


 俺は、紗淑乃ちゃんのことがあるので、人のことを心配している場合ではないのだ

 が、どうしてもこの二人のことは気になってしまう。


 紗淑乃ちゃんとの関係はもちろん大切で、その関係は発展させていかなくてはならないと思っている。


 しかし、この二人の関係の方も俺にとっては大切だ。


 もし、二人の関係が、いつまで経っても恋人どうしに発展しないようであれば、おせっかいということになるのかもしれないが、どこかで俺が二人を助けてあげることが必要になってくるのでは……。


 俺はそう思うようになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る