第48話 向上する業績

 俺は中学生になった。


 小学校六年生の四月に子会社の社長に就任した俺だったのだが、この一年間は苦闘の連続だった。


 最初は、本社が受注した仕事をこの子会社で請け負うところから始め、その後、少しずつ自分のところでも仕事を受注し、それをこなして成果を上げるという計画。


 しかし、最初の頃は、俺が小学校六年生のまだ子供だということで、取引先の人たちには侮られることが多かった。


 そうした人たちの信頼を得る為には、とにかく成果を出すしかない。


 俺は一生懸命努力をし続けた。


 その俺をやさしく見守ってくれていた今のお父様とお母様。


 口出しは極力避け、俺にまかせてくれた。


 失敗した時があっても、必ず励ましてくれたので、俺としてはありがたかった。


 ただ、睡眠時間が平均三時間ほどになり、少しやせた時は、かなり心配された。


「無理をしてはダメだ。睡眠はきちんと取りなさい。今のお前に必要なのは休養することだ」


「健康第一よ。少しの間、休養を取りなさい」


 と言われて、休養を取るように勧められたのだ。


 実の両親であれば、絶対に出てこない言葉。


 俺はその時、改めてこの今の両親のところにきて良かったと思ったし、ありがたいことだと思った。


 こうした苦闘の甲斐あって、小学校を卒業する時には、取引先の信用を得ることができるようになってきた。


 そして、子会社の業績も向上してきて、IT業界の中で注目される企業になり始めていた。


 俺は熱倉春陸というビジネスネームでやっていける自信がついてきた。


 今の両親は、このことをとても喜んでくれた。


 ただ、こうして業績を上げることができてきたのは、もちろん俺だけの力ではない。


 俺の執事的な役割をしている井頭さんのサポートが大きい。


 そして、何と言っても、今のお父様の力だ。


 お父様の会社の子会社なので、もともとブランド力がある。


 これがなければ、一年で急成長することななかったと思う。


 また、困った時は、的確なアドバイスをいつもしてくれた。


 これも大きかったと思う。


 食事等、私生活の面で会冴えてくれた今のお母様の力も大きい。


 俺の部下になった人たちも、俺のことをよく支えてくれた。


 こうした人たちがいるからこそ、俺は成果を上げることができる。


 そのことはこれからもしっかりと認識しなければならないと思っている。




 仕事の方は軌道に乗ってきた俺。


 これからもっともっと自分の会社を大きくしたいと思う。


 俺が子会社の社長に就任したことを知っているのは、小学校の中では伸時ちゃんときぬなちゃん、そして、紗淑乃ちゃんの三人のみ。


 この三人以外の人たちに話すと、学校の中で目立つようになってしまう可能性がある。


 俺はもともと目立つことが好きではなく、人付き合いも苦手で、面倒なことは避けたいと思っていたので、三人のみに話をしたのだった。


 しかも、この三人に対しても、仕事の話は極力しないようにしていた。


 というのも、学校に来てまで仕事の話はなるべくしたくはなかったからだ。


 俺は仕事が軌道に乗ってきたので、次は私生活を少しずつでもいいので、充実させていきたいと思うようになってきた。


 私生活を充実させていく為には、紗淑乃ちゃんとの関係を発展させる必要がある。


 そのことを俺は強く認識するようになっていた。


 しかし、小学校六年生の間は、その関係を発展させることはできなかった。


 俺が忙しかったこともあるのだが、結局のところ、幼馴染としての関係を維持するという方向にお互いの意識が向き続けてしまったことが、そうなってしまった一番大きい要因だと思っていた。


 紗淑乃ちゃんは、中学生になってからも毎朝必ず、俺に対して、


「定陸ちゃん、好き」


 と言ってくる。


 ただ、それでも、それ以上の言葉は言わないまま。


 紗淑乃ちゃんの俺に対しての恋する心は、着実に育っている気はするのだが……。


 しかし。俺の方も紗淑乃ちゃんのことを言える立場ではないように思う。


 紗淑乃ちゃんは、中学生になって、ますますその美しさに磨きがかかってきた。


 制服姿が素敵。


 俺はその姿に、ますます心を奪われるようになっていく。


 しかし……。


 小学校六年生の時もずっとそうだったのだが、俺は紗淑乃ちゃんに対して「恋」という言葉を言うこと自体ができないままだ。


 その言葉を言ったら、恥ずかしすぎて心が全面的に壊れてしまいそうな気持ちになってしまうところは、何も変わっていない。


 このままでは、中学生になったというのに、何の進展もないまま月日だけが過ぎていくことになる。


 俺の心には、少しずつあせりがだんだん生まれ始めるようになってきた。

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