第46話 紗淑乃ちゃんの気持ち
そうして迎えた小学校六年生。
俺と紗淑乃ちゃんはここでも一緒のクラスにはなれなかった。
紗淑乃ちゃんは、
「また定陸ちゃんと別々のクラスになっちゃった……」
と言って、表情は変えないものの嘆いていた。
俺は、もう小学校六年生になったこともあり、これでそろそろ紗淑乃ちゃんは俺に対して好きだと言うことはなくなっていくのでは、と思っていた。
そして、幼馴染というのはそういうものだろうという気持ちを持ち始めていた。
しかし……。
紗淑乃ちゃんは変わらなかった。
依然として、朝、毎日、
「定陸ちゃんのことが好き」
と言ってくる。
ここまで来ると、俺のことが本当に好きなのでは、と思うようになってくる。
でも、無表情のままであることには変わりがない。
これがどうしても俺の心を紗淑乃ちゃんに傾くことを妨げてしまう。
俺は、紗淑乃ちゃんがなぜ俺にそう言うことを言ってくるのか、この年になってもまだ理解ができないままでいたのだ。
本人に気持ちを聞くしかないとはは思うのだが、それはとてつもない恥ずかしさがあるので、小学校六年生になるまでは、一度も直接、気持ちを聞くことはできないでいた。
小学校六年生になっても紗淑乃ちゃんの俺に対する行動に変化はなかったので、俺はついに決断することにした。
紗淑乃ちゃんが、俺のことを本当に好きなのかということを確認すること。
そして、俺に恋をしていて、恋人にしたいと思っているかどうかを確認すること。
この二点を紗淑乃ちゃんに聞き、俺のことを恋人にしたいと思っているのであれば、俺から正式に恋人として付き合うことを提案することを俺は決断した。
まだ俺は紗淑乃ちゃんに恋をするまでにはなっていないが、紗淑乃ちゃんがそこまで想ってくれているのであれば、それに応えたいと思ったのだ。
四月中旬の日曜日。
いつものように自分の家にもなった今の両親の家の自分の部屋で、紗淑乃ちゃんと、「かわいいキャラクターが多数登場するほのぼのとしたゲーム」をしている時に、俺は、
「紗淑乃ちゃん、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
と話を切り出した。
すると、紗淑乃ちゃんは、
「いいよ」
と表情を変えずに言ってくれた。
俺は恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかったのだが、何とかその気持ちを抑え込み、
「紗淑乃ちゃんはいつも俺のことを好きだと言ってくれるけど、本当に好きなの?」
と言った。
この言葉を言うだけで、俺の心は壊れ始めてしまう。
その為、俺はこの後、
「俺に恋をしているの? そして、俺を恋人にしたいの?」
と言うはずだったのに、その言葉を言うことができなくなってしまった。
「恋」という言葉は、「好き」という言葉を言うよりもさらに難易度が高い。
この言葉を言ったら、恥ずかしすぎて心が全面的に壊れてしまいそうな気持ちになってしまったのだ。
この言葉を言うことこそ、今日の本題だったというのに……。
自分が情けなくなってくるが、どうにもならない。
それに対し、紗淑乃ちゃんは、
「うん。好き」
と相変わらずの無表情で言ってくる。
ただ、この後、
「わたしは定陸ちゃんに恋をしている、そして、定陸ちゃんを恋人にしたいと思っているの」
と言ってくれれば、俺としても助かったところなのだが、紗淑乃ちゃんはその言葉を
言うことはなかった。
いや、何かを言おうとしていたので、もしかすると、そういうことを言いたかったのかもしれないが、それは言葉にはならず、黙ってしまった。
ただ、それでも紗淑乃ちゃんは表情を変えないまま。
俺は、その時、紗淑乃ちゃんが俺に対してその先のこと言おうとしないのは、俺との幼馴染としての関係が壊れるのを恐れているのではないか思った。
そう思ってくると、俺には今までよくわからなかった紗淑乃ちゃんの行動を理解できるようになってくると思える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます