第44話 幼馴染・紗淑乃ちゃん
紗淑乃ちゃんは、俺以外に伸時ちゃんときぬなちゃんがいる時は、微笑んでくれるのに、二人きりになると微笑んでくれないことは、幼稚園の頃から理解ができなかった。
俺はそんな紗淑乃ちゃんの微笑みを見ようとして、今までいろいろ努力を重ねてきた。
面白いことを言ったり、面白い仕草をしたりしたのだ。
でも、紗淑乃ちゃんは一切反応しない。
冷たい反応をするというわけではなく、とにかく表情を変えないのだ。
今まで何十度も失敗して、その度にガックリしてきたが、俺はこれからも、二人きりでいる時の紗淑乃ちゃんの微笑みを見る為に一生懸命努力していくことになるのだろう。
いずれにしても、このことについては、まだよく理解できないままだった。
紗淑乃ちゃんのことを理解ができないのはそれだけではない。
紗淑乃ちゃんは、幼稚園で初めて会った時から、
「わたし、あなたのことが好き」
と言っていた。
それから幼稚園、そして、小学校に入ってからも毎日、
「定陸ちゃん、好き」
と言い続けている。
紗淑乃ちゃんとは小学校に入ってからは、クラスがずっと違っていた。
俺は、小学校一年生の二学期以降は、忙しくなったこともあって、そのことをあまり気にすることはなかった。
しかし、紗淑乃ちゃんは、進級する時に行われるクラス替えの度に、
「定陸ちゃんと一緒のクラスになりたいのに、なぜなれないんだろう……」
と言って、表情は変えないものの嘆いていた。
紗淑乃ちゃんとは通学路が一緒ではない為、一緒に学校に通うことがない。
そのことも紗淑乃ちゃんは残念がっていた。
こうなると、通学路もクラスも一緒ではないので、俺と紗淑乃ちゃんには接点がほとんどないように思える。
普通だったら、いくら幼馴染だとは言っても、この時点で疎遠になり始めた可能性は十分あったと思う。
しかし、そうはならなかった。
紗淑乃ちゃんは、朝、俺が校舎に入り、教室に向かって歩いている時を、俺に話しかけることのできる最大のチャンスと判断したのだと思う。
そして、そこで、
「定陸ちゃん、好き」
だと言うことが、紗淑乃ちゃんにとって俺への好意を伝える一番いい手段だと思ったのだろう。
俺に好意があり、少なくとも嫌いでないのはこれで理解できるところだ。
夏休みのような長期の休みの時は、学校がないので、会う機会が本来は減るものだ。
俺が小学校二年生と三年生の時は、この長期の休みの中の平日と土曜日、今の両親の家の中で、一日中勉強していることが多かった。
小学校四年生になると、平日は実務を学ぶ為、会社に行くようになったのだが、土曜日はそれまでと同じく一日中勉強をしていた。
この休みの中の日曜日も、夜は勉強をしていた。
しかし、昼間は、今の両親の家で、伸時ちゃんときぬなちゃん、そして、紗淑乃ちゃんと俺の四人でゲームをして遊ぶようにしていた。
俺はゲームが好きなので、こういう時間があるのはありがたかった。
ただ、伸時ちゃんときぬなちゃんは、小学校三年生の夏休みの頃から、俺と紗淑乃ちゃんと遊ぶ回数が減っていった。
伸時ちゃんはサッカークラブで忙しく、きぬなちゃんもお稽古ごとに加えて、伸時ちゃんの試合がある時は応援に行くようになっていたので、忙しくなってきていたからだ。
伸時ちゃんときぬなちゃんを合わせた四人で遊ぶのは、一か月に一回程度になった。
そして、小学校五年生の夏休みの中の日曜日は、伸時ちゃんときぬなちゃんの時間が取れなかった為、紗淑乃ちゃんと二人だけでゲームをして遊ぶようになった。
二学期になれば、また一か月に一回程度は遊べるようになりそうではあったのだが……。
四人でいる時は微笑むことある紗淑乃ちゃんだが、俺と二人きりになると一切微笑まなくなる。
少し話しかけづらいところはあるのだが、紗淑乃ちゃんと一緒にいるのは幼稚園の頃から別に嫌なことではない。
二人で一緒に、「かわいいキャラクターが多数登場するほのぼのとしたゲーム」をしていて、いつも楽しいので苦だと思うことはなかった。
ただ……。
紗淑乃ちゃんと長い休みの間、会うのは日曜日だけではない。
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