第43話 寝取られてしまう可能性

 今、俺が二人の仲について、予想しているのは次の二つのルートだ。


 一つ目は、このままどこかの時点で、伸時ちゃんがその鈍感さを克服し、きぬなちゃんと相思相愛になるルート。


 これが一番望ましいと俺は思っているのだが、きぬなちゃんは、これからもっと魅力のある女性に成長していくので、寝取られないように、伸時ちゃんには注意をしてほしいと思う。


 俺のような思いはさせたくない。


 二つ目は、伸時ちゃんが鈍感さを克服する前に、他の魅力的な男子生徒にきぬなちゃんが取られてしまうルート。


 このまま伸時ちゃんがきぬなちゃんに対してのアプローチをしていかないと、きぬなちゃんは、小学生の間はまだ大丈夫だとしても、中学生、そして、高校生となっていく間に、その魅力を知った魅力的な男子生徒の誰かに取られてしまう可能性がある。


 現在のところは、このルートになる可能性の方が高いと思う。


 伸時ちゃんがきぬなちゃんに対して、全く気がないというのなら話は別だが、心の奥底ではきぬなちゃんのことが好きなはずだ。


 したがって、きぬなちゃんが他の男子生徒に取られた場合、取られてすぐに思うかどうかは別として、遅くてもその後何日か経つ内に、


「俺は大失敗をしてしまったのでは?」


 と思い、心の傷になってしまうだろう。


 幼馴染としてずっと一緒に過ごしてきたのだから、いくら普段は豪胆とも言える伸時ちゃんとは言っても、一旦心の傷を作ってしまうと、それはすぐに癒えるものではないだろう。


 また、この逆のパターンもありうる。


 伸時ちゃんはきぬなちゃんに対してだけではなく、異性全般に対して鈍感なところがあるサッカーに夢中な男子。


 したがって、伸時ちゃんが他の女子を好きになる可能性は、高校生になってもまずないとは思っている。


 しかし、伸時ちゃんも男の子。


 きぬなちゃん以外の異性に、興味を持つことはないとまでは言えない。


 その場合、伸時ちゃんが他の女子生徒を好きになる前に、きぬなちゃんが付き合うことができればいいのだが、それができたとしても、今度は寝取られてしまう可能性がある。


 また、伸時ちゃんがきぬなちゃんと付き合う前に、他の女子生徒と付き合うことになる可能性もないとは言えない。


 こうした二つのどちらかの状況になった場合、今度はきぬなちゃんが苦しむことになる。


 俺としては、そうなることも避けたいと思っている。


 このように俺は、二人のこれからのことについての心配をするようになっていた。


 とはいうものの、俺は現時点で、二人の仲に口をはさむわけにはいかない。


 伸時ちゃんが、その鈍感さから脱し、きぬなちゃんの思いに気づいてくれることが一番いいのではないかと思っているのだ。




 こうして、伸時ちゃんときぬなちゃんの仲について考えてきた俺。


 この二人には、前世の俺のようになってほしくないと思っていた。


 しかし、この二人のことを思っている内に、人のことを心配するだけではなくて、自分のことについても、きちんと考えなければならないのでは、と思うようになってきた。


 俺にはもう一人幼馴染がいる、


 幼い頃から美少女の片鱗が現れていたというより、既にその頃から美少女だと言ってよかった紗淑乃ちゃん。


 才色兼備で。気品も持っている。


 ただ、口数は少なく、コミュニケーションは少し取りづらそうなところがあった。


 でも、きぬなちゃんを始めとした親しい女子の間では、紗淑乃ちゃんの方から話すことは少ないものの、いつも微笑んでいて、一緒にいると安心するというので、評判はなかなかいいものがある。


 しかし……。


 俺と二人きりになった場合、今まで俺に対して微笑んでくれたことは一度もない。


 幼い頃からずっとそうだ。


 俺とおしゃべり自体はするのだが、微笑んでくれることがないので、いつも、


「微笑んでくれるとこちらもうれしいのになあ……」


 と思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る