第41話 実の両親の離婚、そして、新しい人生の始まり

 俺の両親は、俺が小学校四年生になると、離婚同然の状況まで来ていたのだが、離婚をしようとしなかった。


 お互い、まだやり直せる可能性があると思ったのだろうか?


 確かに、小学校四年生の間に数回、二人だけで会ったことはあったようだ。


 その時に仲の修復についての話もしたのかもしれない。


 しかし、結局、話はもの別れに終わったようで、二人の仲は修復することはなかった。


 二人がどういうつもりで、どういう話をしたのかはわからないが、浮気相手をそのままにしておくのが条件になるのだろうから、仲が修復することなどありえないことだと言えるだろう。


 そして、小学校五年生になると、離婚の話が具体化してくるようになった。


 予想通り、両親は、すぐにぼくの親権を放棄することで合意した。


 そこには何の躊躇もなかった。


 ぼくは、さすがに少し腹が立ったものの、この二人ならば仕方がないと思い直し、心を穏やかにするように努力した。


 ただ、その後の離婚協議には時間がかかった。


 お互いの条件がなかなか折り合わなかったのだろう。


 しかし、ぼくは、会社の実務を身につけるので精一杯で、それどころではなかった。


 小学校六年生になるまでに、子会社の社長にふさわしい人間になる必要があり。それを目標として、毎日毎日、一生懸命努力をしていたからだ。


 小学校五年生の一月、両親は離婚することで合意をした。


 本来であれば、親権者がいなくなるので、ぼくは絶体絶命のピンチになるところだ。


 ぼくの親権についての話し合いは、両親とおじいちゃん、そして、おばあちゃんの四人で行われた。


 ぼくはこの頃になると、前世と同じように、おじいちゃんとおばあちゃんと実の親子と言ってもいいぐらいの仲になっていた。


 その為、この二人の養子になり、この二人に親権を持ってもらうことは、特に問題になることもなく、すんなりと決まった。


 ぼくたちが今まで住んでいた借家からは、全員が去ることになった。


 ぼくはおじいちゃんとおばあちゃんの家に住むことになり、両親はそれぞれ既に愛人と同棲をしているマンションに住むことになる。


 小学校五年生の春休みに、ぼくは両親との別れの時を迎えたのだが、両親はもうぼくに対しては全く関心を示すことなく、笑顔で去って行った。


 ぼくに対して、


「元気でいてくれよ」


 という一言でも声をかけてくれたらよかったのに、一切何の言葉もなかった。


 いかにぼくのことをじゃまものだと思っていたということだろう。


 ぼくは、前世の経験から、二人に対して、


「今は相手とラブラブで楽しいのかもしれないけど、それは今だけかもしれない。その内に、だんだん相手のことが嫌になってくることも予想される。そして、それが原因で離婚する可能性も十分あると思う。二人はそのことを十分考慮する必要があるよ」


 と忠告しようかと思った。


 しかし、こうした両親の態度により、その気力はなくなった。


 前世と同じく、今世でもぼくは両親からじゃまもの扱いされ、捨てられてしまうことになってしまった……。


 一瞬、憎しみと寂しさが混じった複雑な気持ちになった。


 でも、すぐに心を切り替えることにした。


 前世の両親と今世の両親のことは、心の奥底にしまうことにしよう。


 小学校六年生を迎えようとしているぼくは、これから新しい人生を歩き始めるのだ!


 ぼくの心の中は、そうした熱い気持ちが湧き出してきていたのだった。


 ぼくは、これで正式におじいちゃんとおばあちゃんの養子になった。


 ぼくが正式にに二人の養子になることが決まった日、ぼくは、


「お二人の養子になれてうれしいです、ぼくのお世話を今までしていただいて、ありがとうございます。これからもお世話になりますが、よろしくお願いします。そして、ぼくは、これからもっと会社に貢献し、お二人に対して親孝行をしていきたいと思います」


 と言った後、二人に対して頭を下げた。


 その言葉に二人は、涙を流して喜んでくれた。


 こうしてぼくは、前世の姓でもあり、新しい両親の姓でもある倉春を名乗ることになった。


 伸時ちゃんとも同じ姓になる。


 倉春定陸(くらはるさだりく)の誕生だ。




 そして、ぼくは、小学校六年生になった。


 桜が満開の中、いよいよ新しい生活のスタートとなる。

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