第35話 おじいちゃん

 ぼくは、これからのことで一番検討しなければいけないと思ったのは、両親のことだった。


 今、既に「家庭内別居」状態の二人。


 そして、ぼくは、この二人にじゃま者扱いをされ始めていた。


 物心がつくまでに離婚されてしまった前世と違い、今世ではなんとか小学校一年生のところまでは結婚生活は持ってきている。




 しかし、この状況では、いつ離婚ということになるかわからない情勢だ。


 離婚ということになったら、前世のように両親のどちらも親権を持とうとしなくなる可能性がある。


 いや、その可能性はかなり高いだろう。


 今の親族内で、ぼくの親権を持ちたいとい思う人たちは、まずいないと思う。


 前世では、今のおじいちゃんとおばあちゃんが母方の祖父母ぼくの親権を持ってくれて、養育してくれていたが、今世の祖父母は、現時点で父方・母方ともぼくの両親と仲が悪いので、まず親権を持ってくれることはないと思う。


 このまま両親が離婚まで進んでしまうと、ばくは絶体絶命のピンチも落ちることになる。


 そのピンチから脱出するには、親権を持ってくれる人たちが現れるしかないのだが……。


 今期待ができるのは、前世の祖父母であるおじいちゃんとおばあちゃん夫婦だけだ。


 もし、両親が離婚して、二人とも親権を放棄するようだったら、前世のようにこの二人に養育してもらいたいという気持ちは強い。


 いや、もし両親のどちらかが親権を持ちたいと言ったとしても、ぼくはこの二人に親権をもってもらいたいと思っているくらいだ。


 ただ、ぼくはこの二人に既に前世で大変お世話になっている。


 前世ではそのお返しを。ぼくは何もすることができないままこの世を去ってしまっているので、また今世でお世話になるのは心苦しいところがある。


 この二人のお世話に今世もなるわけにはいかないという気持ちもある。


 ぼくは、しばらくの間、二人に対して、両親の離婚の可能性のことを話し、もし離婚した場合は、前世のように養子にしてくれるようにお願いをするべきかどうか、悩んでいた。


 しかし、小学校一年生の心身では、このように将来について悩むのは負担が大きい。


 結局、ぼくは当分の間、この問題を先送りにすることにした。


 とりあえず、この夏休みの間は、われを忘れて、伸時ちゃんときぬなちゃん、そして紗淑乃ちゃんと遊ぶことにしたのだった。


 おばあちゃんも、そうしたぼくを受け入れてくれていた。




 夏休みが終わりに近づいたある日。


 まだ暑い日が続いていた頃。


 ぼくはおじいちゃんによってその家に呼ばれていた。


 家自体には毎日行っているのだが、おじいちゃんに呼ばれるのは初めてのことだ。


 前世の祖父は。中堅IT会社の取締役で、いつも夜遅くまで仕事をしていたので、お互いに顔を合わせる機会がそれほど多いとは言えなかった。


 そして、機会があっても、寡黙な人だったので、話をする時は緊張してしまう。


 その為、直接話をすることは難しいところがあった。


 しかしだからと言って、ぼくに対しての愛情は薄かったということはなかった。


 ぼくに対して直接話すことはほとんどなかったものの、祖母の方からぼくの状況を聞いてくれていた。


 そして、祖母を通じて、ぼくにいつも配慮をしてくれていたのだ。


 今思うと、緊張を乗り越えてもっと直接話をして、感謝の思いを伝えるべきだったと思う。


 今世のおじいちゃんは、ぼくがこの世を去った後、会社を作り、その社長になっていた。


 最近、急成長しているIT会社の社長だ。


 いつもは寡黙な人なのだが、仕事になると一変して、滑らかに話をするという。


 もうかなり高齢になっているにも関わらず、その行動力には尊敬するしかない。


 前世の時は、仕事人間で、細かいことも自分で行うことが多い為、毎日夜遅くまで会社で働いていた祖父だった。


 しかし、今は、おばあちゃんとの時間を大切にしている為、仕事はきりのいいところで切り上げるようになり、夜七時までには帰宅することが多くなっていた。


 その方が仕事の能率が上がることを認識してきたようだ。


 おじいちゃんの帰宅が夜七時になってきたので、ぼくは二人の食卓に参加することが多くなった。


 これはおばあちゃんの要望によるところが大きいが、おじいちゃんも賛成していた。


 話自体はおばあちゃん主導なので、それはいいと思っているのだが、おじいちゃん自体は相変わらず寡黙なので、ぼくとしては緊張してしまうところはどうしてもあった。


 このような状況だったのだが、今日はそのいつもは寡黙なおじいちゃんからの呼び出しだ。


 どうしても緊張をせざるをえないところだ。

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