第34話 心を切り替える

 その日の夜。


 ぼくは、ベッドの上で横になりながら、今日一日のことを思い出していた。


 今日の朝、ぼくは前世のことを思い出していた。


 両親はぼくが幼い内に離婚。


 これが原因でイジメられるようになってしまう。


 毅然とした対応をする内に、だんだんその攻勢は弱まってはいくものの、中学校を卒業するまで、そのことに悩まされてしまう。


 好きになった幼馴染とは、恋人どうしにはなるものの、イケメンに寝取られてしまった。


 心に大きな打撃を受けたぼくは、病気になり、若くしてその生涯を閉じてしまう。


 生涯の全部を思い出したわけではないにしても、全体的につらくて苦しい人生だったと思わざるをえない。


 いや、それでは言葉が足りない。


 酷い人生だったといわざるをえないだろう。


 そして、両親と喜緒乃ちゃんと糸敷に対しては、改めて憎しみが湧き出すようになってしまった。


 これがまたぼくの心を苦しめる。


 ただ、一つだけ救いだったのは、祖父母が愛情を持ってぼくを養育してくれたことだ。


 そのことをぼくは祖父母に感謝をしている。


 その祖父母は、今世でお世話になっているおじいちゃんとおばあちゃんと同じ名前で、同じ雰囲気を持っていたので、同一人物では、という期待が湧き上がってきていた。


 そして、おばあちゃんなら、今の前世の両親の状況と、喜緒乃ちゃんや糸敷の状況を知っているのでは、という期待も沸き上がってきて、それらの状況が把握できれば、両親と喜緒乃ちゃんや糸敷に対して湧き出した憎しみをやわらげることができるのではと思ったのだ。


 おばあちゃんは、ぼくが期待した通り、前世の祖母だった。


 前世の祖父母は、僕が今世話になっているおじいちゃんとおばあちゃんだったのだ。

 それはよかったのだが……。


 前世の両親と、喜緒乃ちゃん、そして、糸敷の四人は、すべてみじめな状態になっていた。


「何をやっているんだろう……」


 と思わざるをえない。


 両親は、お互いのフィーリングが合っていなかったという根本的な問題はあったにしても、お互いに助け合い、大切にし合う心があれば、ぼくのことを捨てることはなく、仲の良い夫婦としてやっていけたのに……。


 ぼくは、両親が選択を間違ったことを悲しく思うが、もうどうにもならない。


 また、喜緒乃ちゃんについては、イケメンだからと言って糸敷を好きになるのではなく、幼馴染であるぼくのことを、もっと大切にしてほしかったと思う


 今のぼくは。寝取られたと言う言葉の具体的な意味まではまだわからない。


 しかし、ぼくの心には、それがとてもつらく苦しいことであることが心に刻み付けられているので、その言葉を思い出すだけでもつらく苦しくなってくる。


 ぼくがもっと歳をとっていくと、具体的な意味を把握することになるのだろう。


 その時は、今よりもはるかにつらく苦しい思いをしそうだ。


 嫌になってしまう。


 喜緒乃ちゃんが糸敷を選ばずに、ぼくを選んでいれば、喜緒乃ちゃんは現在のようなみじめな状態にはならなかった。


 ぼくの方も、今思ったようなつらく苦しい思いをすることはなかった。


 そして、ぼくが喜緒乃ちゃんのことを幸せにしたと言うのに……。


 ぼくは、喜緒乃ちゃんも選択を間違ったことを悲しく思うが、もうどうにもならない。


 いずれも間違った選択をして、みじめな状態になってしまっているのだ。


 ぼくは、今までの話を聞いて、ある程度は心を整理することができたので、この四人に対しての憎しみは弱まってきた。


 それでもまだ憎しみは残っているところはある。


 それだけこの四人は、ぼくの心に大きな打撃を与えたのだ。


 しかし、いつまでも前世の憎しみを持ち続けるわけにはいかない。


 それよりも、ぼくは生まれ変わっていて、小学校一年生になっているということを認識すべきだろう。


 前世は既に終わっているし、今世になってからもうそれだけの時間が経過しているのだ。


 これからは、前に向かって進むことが大切だ。


 そう思ったぼくは、心を切り替えて、これからのことを考えることにした。

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