第33話 みじめな前世の幼馴染と寝取ったイケメン

 遅すぎる。


 なぜ喜緒乃ちゃんは、あの時、ぼくのことを選択しなかったのだろう。


 学校一のイケメンだからと言って、自分の心を糸敷の方に動かされることがなければ、ぼくとの幸せな結婚生活が待っていたのかもしれない。


 でも、それは実現することはなかった。


 今頃言っても遅すぎるのだ。


 残念でしょうがない。


「最後に、喜緒乃ちゃんのお母さんは、涙を流しながら、喜緒乃ちゃんをこれから病院に入院をさせると言っていたわ。心に大きな打撃を受けていたのでしょうね。お母様は、ある程度心の状態が回復するまでには、相当時間がかかると言っていたので、今も入院中かもしれないわね。いずれにしても、この二人は、つらい思いをその後にして、幸せではなかったと言えると思う。どうしてもっといい選択肢を二人は選ぶことができなかったのだろうと思い、悲しくなってくるの。でも、悲しいことはそれだけではないわ。この二人の選択に、忠陸ちゃんは翻弄されてしまう結果になってしまった。そのことを当時のわたしはよくわかっていなくて、今、こうして定陸ちゃんと話をしていて、そのことがようやく理解できるようになった。そして、定陸ちゃんがつらい思いをしてきたのを知って、より一層悲しくなってきたの。ごめんなさい、定陸ちゃん。当時、もっと忠陸ちゃんのことを理解していれば、もう少し力になることができたのにね……」


 おばあちゃんはそう言うと、涙を流し始めた。


 寝取られたことを言っていない今の状態でも、ぼくの為に悲しんでくれていると同時に、その当時のぼくが喜緒乃ちゃんのことでつらい思いをしていたことに対し、力になれなかったことについて、相当心に打撃を受けているようで、ぼくは心が痛んだ。


 もし、寝取られたことを話したら、もっと心に打撃を受けることになってしまうだろう。


 それは絶対に避けたい。


 ぼくは、糸敷に喜緒乃ちゃんが寝取られたことは、絶対に言わないことを改めて決めた。


 それにしても、勝ち組と思われたこの二人が、今、苦しみ続けているとは……。


 前世において、ぼくに対してあれほど優位に立った二人なのだから、ぼくとしては、とても悔しいことではあるのだが、幸せになると思っていた。


 ぼくとしては、全く想像ができなかったことだった。


 今のこの二人は、みじめな状態だというしかない。


 おばあちゃんは涙を拭くと、


「前世のことを思い出してきたとは言っても、定陸ちゃんの歳では、難しいと思われる話を続けてしまった。まず、そのことを詫びなければならないと思っているの。そして、定陸ちゃんにとってはつらい話を続けてしまい、嫌な思いをしたかもしれないと思うので、そのことも詫びたいと思っているの。ごめんなさい」


 と言った後、頭を下げた。


 それに対して、ぼくは、


「今日の話の中で、難しいと思ったのは恋の話ですね、前世では恋を経験してきましたが、今のぼくは小学校一年生で、まだ恋をしたことがないので、まだよくわからないところがあります。それでも今日は、かなりのところについて、理解できたと思っています。そして、つらい話については、いずれ聞いておかなければならないことですので、今日聞くことができてよかったと思います、ありがとうございました」


 と応えた後、頭を下げた。


「そう言ってくれると、ありがたいわ」


 おばあさんがそう言ったのに対し、ぼくは、


「前世のぼくの両親のこと、そして、喜緒乃ちゃんとその恋人に対しては、まだまだ複雑な思いは持っていますが、それを乗り越えて、新しい人生を歩いていきたいと思っています。今日はこうした人たちのことを教えていただきまして、ありがとうございました」


 と言って、おばあちゃんに改めて頭を下げるのだった。

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