第32話 前世の幼馴染の後悔

「その後の喜緒乃ちゃんはどうなったかわかりますか? もし把握していたら教えて下さい」


 ぼくは、気を取り直しておばあちゃんに聞いた。


 すると、おばあちゃんは、


「それからは、喜緒乃さんとそのご両親と会うことはなかったの。わたしも特に会いたいとは思っていなかったわ。ところが半年ぐらい前に、喜緒乃さんのお母様と会う機会があって、そこで、喜緒乃さんのことを聞くことができたの」


 と言った。


「喜緒乃ちゃんのお母さんは何と言っていたのですか?」


 半年ぐらい前のことではあるものの、喜緒乃ちゃんの状況をこれで聞くことができる。


 どのようになっていたのだろう?


 だんだん緊張してきた。


 おばあさんは、


「喜緒乃さんは、高校。大学を経て、社会人になって三年ほど経った後、結婚したの。相手の男性は、高校一年生の時、忠陸ちゃんと別れた直後から付き合っていたイケメンの人だと言っていたから、忠陸ちゃんが言っていたイケメンの人と長い交際期間を経て結婚したということね」


 と言った。


 ぼくは、そのことを聞いてガッカリした。


 よりによって、ぼくから喜緒乃ちゃんを寝取った糸敷と結婚するとは……。


 ぼくが肩を落としていると、おばあさんは、


「これで二人は幸せになりました、なら、他の人たちはともかく、二人にとっては良かったのでしょうけどね」


 と言った。


「他の人たち」というのは、ぼくのことも含んでいるようだ。


 おばあちゃんは、こういう細かい心配りをしてくれる。


 ぼくは、


「その後、どうなったのでしょう?」


 とおばあちゃんに聞いた。


 すると、おばあちゃんは、


「お母様によると、喜緒乃さんと付き合っていた男性は、イケメンでものすごくモテたそうよ。喜緒乃さんを付き合い始めた後も、浮気を繰り返していたそうで、その度にケンカをしていたそうなの。その男性から別れ話が出たことも何度もあった。でも、喜緒乃さんはいつも強い調子で、『わたしにも意地というものがあるの!』と言って、絶対に別れようとはしなかった。両方とも既にラブラブな時は過ぎて、お互いのことを嫌い始めていたと言うのに関係はずっと続いていたの。そして、その男性は喜緒乃さんに押し切られる形で結婚することになった。喜緒乃さんの両親は反対したのだけれど、そこでも喜緒乃さんは、『意地というものがあるの!』と言って、自分の意志を曲げなかったそうよ」


 と言った。


 喜緒乃ちゃんとしては、ぼくと別れ、糸敷と付き合ったことが一番いい選択肢と思い続けたかったのだろう。


 それが、喜緒乃ちゃんの意地ということなのだと思う。


 でも、それで結婚生活はうまくいったのだろうか?


 そうぼくが思っていると、おばあちゃんは、


「定陸ちゃんも想像していると思うけど、こんな状態で結婚生活が続くわけがないわよね。その男性の方は、三か月ほどは我慢していたようだけど、その後は、一緒に住んでいたマンションから出ていってしまった。別居してしまったのね。そして、離婚の話がその男性から正式にされるようになってしまった。喜緒乃さんはそれを阻止しようとして、その男性が一人暮らしをし始めたマンションに押しかけるようになった。それが毎日続いていたので、その男性はノイローゼのようになって、入院することになったしまったの。結局、離婚は成立して、喜緒乃さんは実家に帰ってきた。帰って来た時の喜緒乃さんは憔悴しきっていたという話。そして、『あの時、舞助くんじゃなくて、忠陸ちゃんを選択していれば、その後、結婚して今でも幸せだったのに』いうことを言ったそうよ。その直後に、わたしは喜緒乃さんのお母さんと久しぶりに会い、今、わたしが定陸ちゃんに話をしてきたことを聞いたということなの」


 と言った。


「喜緒乃ちゃんは、そんなことを言っていたんですか……」


「お母様はそう言われていたわ。言ったのはその時だけだったようなのだけど。自分でも忠陸ちゃんのことを振ったのは、間違っていたと思ったのでしょうね」

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