第31話 前世の幼馴染の状況

「まず確認したいんだけど、定陸ちゃんは前世の病床で、『ぼく、喜緒乃ちゃんに振られたんだ』と言い、『喜緒乃ちゃんの新しい恋人はイケメンなんだ』と言っていたわよね」


「はい、そうです」


「あの時は、忠陸ちゃんがもう危篤を迎えていて、わたしは何とか忠陸ちゃんが回復してほしいという思いが心の中で一杯になっていたので、忠陸ちゃんの言葉がどういう意味を持つのかというところまでは考えることができなかったの」


「仕方がないことだと思います」


「忠陸ちゃんは、喜緒乃さんに振られてしまって、心に大きな打撃を受けていたのよね……。そのことに、当時のわたしは気がつかなかった。気がついていれば、少しは力になったのかもしれない。今、謝っても仕方がないことだけど、それでも、謝りたいと思っているの」


「おばあちゃんが謝ることではありません。その時、ぼくは心に大きな打撃を受けてしまいました。でも、ぼくの心がもっとしっかりしていれば、立ち直ることはできたかもしれないのです。残念ながら今でも喜緒乃ちゃんとその恋人になった人には、複雑な思いを持っていますので、今の状況は把握したいと思っています。ですからその情報をおばあちゃんがお持ちでしたら、教えていただこうと思ったのです。しかし、把握した後は、そうした複雑な思いを乗り越えていきたいと思っています」


「わかったわ。ではわたしが知る限りの話をすることにするね」


 おばあちゃんはそう言うと、話をし始めた。


「忠陸ちゃんがこの世を去った後の式に、喜緒乃さんはご両親と一緒に参列していたの。式場では、この三人とも涙を流していて、忠陸ちゃんがこの世を去って悲しんでいることは伝わってきたわ」


 ぼくは、前世のことを思い出したと言っても、まだ思い出せていないことも多い。


 ぼくが前世でこの世を去った直後の状況もその一つだ。


 魂は、普通、すぐにあの世にいくことはなく、この世を去ってもしばらくの間は、この世にとどまるそうだ。


 だとすれば、ぼくの心の中にも式のことは記憶されていると思うのだが、今のところは思い出せていない。


 おばあちゃんの話は、そういう意味で貴重なものだ。


 糸敷に心を奪われた喜緒乃ちゃんは、当時のぼくのことなど、どうでもいい存在になり、ぼくのことを捨てた。


 それも、寝取られるという一番厳しい形で。


 喜緒乃ちゃんは、そのことにより、ぼくの心と体が壊れることを想定することはでなかったのだろう。


 そうした喜緒乃ちゃんだったのだけれど、さすがにぼくの式には参列してくれたようだ。


 涙を流してくれたことについては感謝したい。


 しかし、ぼくが心と体を壊してしまったのは、喜緒乃ちゃんが糸敷に寝取られたことによるところが大きい。


 前世のぼくが、若くしてこの世を去ってしまうことになったのは、ここで心と体を壊してしまったからだと言っていい。


 喜緒乃ちゃんが糸敷に「寝取られる」ということがなければ、ぼくはその後も生きることができていたのだと思う度に、


「そんなことを思っていても、時間の無駄」


 と思って抑えようとしても、二人に対しての憎しみは湧いてきてしまう。


 今のぼくもその状態だった。


「そうだったんですか。それで、おばあちゃん、その時、喜緒乃ちゃんは何か言っていませんでしたか?」


 ぼくは、喜緒乃ちゃんへの憎しみを何とか抑えながら、おばあちゃんにそう聞いた。

 ぼくとしては、喜緒乃ちゃんに対して、ぼくという恋人を捨てた詫びを、その時にしてもらったのではないかということを、少し期待していたところはあったのだが……。


「残念ながら、何も言っていなかったわ」


 おばあちゃんからの返事。


 結局、詫びの言葉はなかったのだ。


 ぼくはガックリした。


 でも、だからといって、もうどうすることもできない。

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