第30話 みじめな前世の実の両親

「二人ともそれぞれ浮気、そして修羅場……」


 ぼくは、おばあちゃんの話を聞いて、あ然としてしまった。


 離婚してぼくの親権を放棄してまでそれぞれの幸せを追い求めたというのに……。


 おばあちゃんではないが、


「何をしているのだろう」



 と思わざるをえない。


「それで、今のぼくの家みたいな『家庭内別居』になったんですか?」


「いや、もうすぐに離婚という話になったの。多分、以前から夫婦仲はどちらも冷え切っていたのだと思うわ。そうでなければ、『家庭内離婚』の状態が続いたと思うの。離婚するということで合意をした二人だったのだけれど、どちらが親権を持つのかでもめたの。あなたの母親には息子が一人、父親にも息子が一人いたのだけれど、結局、あなたの母親も父親も、相手の方に親権を取られてしまった。あなたの母親は、その息子をとてもかわいがっていたので、何としてでも親権を持ちたかったの。でも、その夫の家は名家なこともあって、その力に押し切られてしまった、慰謝料は支払われたの。でも、それで心が壊れてしまったあなたの母親は、入院することになってしまったわ。あなたの母親はその美貌で、あなたの父親を魅了していたし、周囲の男子生徒たちに対しても魅了していたと聞いていたけれど、今はもうその頃の面影は全くなくなってしまった。そして、今でも入院したままになってしまっているの。こんな娘でも、わたしにとっては娘だから、定期的に見舞いには行っているけど、一向に回復する様子はないわ。わたしとの会話も満足にできない状態なの。最初の離婚は仕方ないにしても、その時、忠陸ちゃんの親権を持っていれば、忠陸ちゃんとお互いに助け合って、今よりずっといい人生になったと思うのに……。わたしとしてはとても悲しいことだわ」


 おばあちゃんはそう言うと、涙ぐんだ。


「ぼくの母親は、心を壊してしまい入院していたんですか……」


 みじめな状態だとしかいいようがない。


 では、ぼくの父親の方はどうなのだろう?


 ぼくがそう思っていると、おばあさんは、


「あなたの父親は、離婚した後、浮気相手と結婚しようとしたの、でも、『浮気』という形だったから夢中になっていたようで、『本命』になった途端に愛が冷めてしまったの。このへんの話は難しいと思うけど、この結果、あなたの父親は、親権は別れた妻に取られ、再婚しようとしたらその道も閉ざされてしまったの。息子をかわいがり、再婚を夢見ていたあなたの父親はそれで心の打撃を受けるとともに、慰謝料。養育費の支払いで苦しむことになった。そして、今は、ここから遠く離れたところで、イケメンだった頃の面影もなくなり、一人で寂しく暮らしていると聞いているわ」


 と言った。


「ぼくの父親もそんなことに……」


 ぼくの両親は、二人ともみじめな状態になっていたのだ。


 改めて、二人とも、


「何をやっているのだろう……」


 と思わざるをえない。


 おばあちゃんは、


「もし定陸ちゃんが望むのなら、前世の母親に会わせてあげることができるけど、どうする?」


 と聞いてきた。


 ぼくはそれに対して、


「おばあちゃん、ご配慮していただいてありがとうございます。感謝申し上げます。でも、もうぼくはこの世に定陸として生まれ変わっています。忠陸ではありません。今のぼくがお見舞いにいっても、母親は混乱するだけでしょう。そして、ぼく自身も、前世でぼくのことを捨てたことに対する心の整理はできていません。申し訳ありませんが、今は会いたいとは思いません」


 と言い、申し出を断った。


 おばあちゃんは、少し寂しそうな表情をしたものの、すぐに切り替え、


「定陸ちゃんの立場ならそう言うわよね。ごめんなさい。こんなことを言って」


 と言ってぼくに謝ったのに対し、ぼくの方も、


「いえ、せっかくご配慮していただいたのに、申し訳ありません」


 と言っておばあちゃんに謝った。


「定陸ちゃんが謝ることではないわ。気にしないでいいのよ」


 おばあちゃんはそう言った後、


「次は喜緒乃さんとその恋人のことね」


 と言った。

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