第29話 前世の実の両親の状況

 この場でぼくがおばあちゃんに、寝取られたという話をするのは、ぼく自身も心の底にある傷がうずくことになってしまう。


 まだキスとか二人だけの世界に入って行くということの具体的な意味を把握していないばくだったが、具体的なことは把握できていなくても、寝取られたということがいかに苦しくてつらいものかということは、心の底に刻み付けられていたからだ。


 おばあちゃんは、ぼくがこの喜緒乃ちゃんと糸敷の二人に苦しめられてしまったことが、ぼくの心を壊し、病気になるきっかけになったことは知らないままだと思う。


 そして、ぼくの心の中にその時の憎しみが残っていることも知らないだろう。


 抑えようと努力はしているものの、残り続けている憎しみ。


 でも、今さらそのことをおばあちゃんに言っても仕方がない。


 ただでさえ、おばあちゃんは、前世のぼくの母親である娘により「縁切り宣言」をされ、ぼくの養育を押し付けられただけではなく、一生懸命育てた前世のぼくを若くして失ってしまったのだ。


 ぼくの苦しみの話をしたら、おばあちゃんの苦しみが増大することになってしまう。


 そこで、ぼくは、


「その後の状況を知りたい」


 という言葉でとどめることにしたのだ。


 ぼくの方は、自分の両親の今の状況も、喜緒乃ちゃんと糸敷の今の状況もメインの話になる。


 しかし、おばあちゃんにとっては、いくら「縁切り宣言」をされたとは言っても、ぼくの母親である自分の娘の今の状況の方がはるかに気になっていたはずなので、こちらが話のメインになるだろうとぼくは思っていた。


 おばあちゃんは、ぼくに対し。


「前世の忠陸ちゃんの両親のことは、あなたが前世のことを思い出したので、あなたが申し出をしなかったとしても、わたしの方から話をしなければならないと思っていたの。また、喜緒乃ちゃんとその恋人のことは。それほど知っているわけではないけど、わたしが今まで聞いている範囲で話すことにするね。では、まず前世での忠陸ちゃんの両親について話すことにするわ。いいわよね」


 と言ってくれたので、ぼくは、


「お願いします」


 と応えた。


 そして、おばあちゃんは、話をし始める。


「忠陸ちゃんがこの世を去った後、あなたの両親は、式には参列したの。でも、もう縁は切れているということで、後の処理は全部わたしたちがすることになった。もちろん養子としてわたしたちの子供になっていたのだから、それはそうなのだけど、何も手伝おうとしなかったのは、さすがに理解ができなかった。自分たちの子供だったはずなのに、そこまで冷たく割り切れるものなのか、と思ったわ」


「ぼくの実の両親は、ぼくに対して冷たかったと聞いておりますので、そういう態度を取るのも必然的なことなのでしょう。残念なことですが」


「ごめんなさいね。忠陸ちゃんには、幼い頃から苦労をかけてしまって……」


 おばあちゃんはそう言ってぼくに謝った後、話を続ける。


「その後、あなたの実の両親は、それぞれの家庭で、子供たちと幸せに暮らしているようだったの。でも、それぞれの子供たちが小学生になった時から、二人の暮らしは大きく変わることになるの」


「どう変わったのでしょう?」


「今のあなたには言いにくいことではあるんだけど、あなたの実の母親の夫が浮気し、あなたの実の父親が浮気をしてしまったの。二人ともそれぞれ浮気をすることになってしまったということね。全く、何をしているの、と言いたくなるけど。だた、わたしのところには、そういう情報が当時、全く入ってこなかった。わたしたちとの縁を切ったという理由で、意地でもわたしたちには知らせたくなかったみたいだった。わたしたちのところにそうした情報が入った時は、もうこの二つ家庭は修羅場になってしまっていたの」

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