第28話 涙を流すおばあちゃん
おばあちゃんは泣いていた。
ぼくの前世の話を信じ、その境遇に同情してくれたのだと思っていた。
しかし、それだけではなかったのだ。
おばあちゃんは涙を拭くと、
「定陸ちゃんの言った通り、わたしたちは、前世の忠陸ちゃんの祖父母だったの。そして、今、生まれ変わった定陸ちゃんの目の前にいる。定陸ちゃんは、やっぱり忠陸ちゃんの生まれ変わりだったのね。初めて定陸ちゃんと会った時、忠陸ちゃんと同じような雰囲気を持っていることはすぐに認識していたのだけれど、生まれ変わったということならそれも納得できるわね。とにかく、忠陸ちゃんが定陸ちゃんに生まれ変わっていたことを知ることができて、こんなにうれしいことはないわ」
と言った。
そして言い終わると、また涙を流し始めた。
ぼくの心にも熱いものがこみあげてくる。
「おばあちゃんはやはりぼくの前世の祖父母だったんですね。ぼくを育ててくれてありがとうございました。心から感謝しています」
ぼくがそう言うと、おばあちゃんは、ぼくのそばに来て、
「前世ではあなたにいろいろな苦労をかけてしまったわ。ごめんなさいね」
と言ったと、ぼくのことを抱きしめた。
ぼくも涙を流し始めながら、
「ぼく、またこの世でおばあちゃんに会えてよかったと思っています。とてもうれしいです」
と言うと、おばあちゃんは、
「そう言ってくれるとうれしいわ。わたしもこの世で定陸ちゃんと会えてよかったと思っているの」
と言ってくれた。
俺はおばあちゃんから、前世の祖母と全く同じ愛情を感じていた。
いや、それ以上かもしれない。
こうしておばあちゃんとぼくは、前世から今世まで縁がずっとつながっていることをお互いに認識することができたのだった。
ぼくは、おばあちゃんに対して聞きたいことがあった。
それは、前世のぼくの実の両親の今の状況と、もし、把握をしていれば、喜緒乃ちゃんとその喜緒乃ちゃんを寝取った糸敷の状況だ。
最後の二人の方は、なかなか難しいそうだが、それでも情報があるといいなあと思っていた。
この四人に対しては、どうしても憎しみの感情が湧いてくるのを抑えることはできない。
時間の無駄だとは思っていても、なかなか抑えるのは難しいところだ。
今の状況を把握することができれば、憎しみを抑える力を得ることができるのでは、と思ったのだ。
ぼくは、
「おばあちゃんに聞きたいことがあるんですけど、いいでしょうか?」
とまた真剣な表情で言った。
おばあちゃんは、
「もちろんいいけど、どんなこと?」
と言ってくれたので、ぼくは、
「前世のぼくの両親のその後の状況と、ぼくの幼馴染の喜緒乃ちゃんとその恋人になった人についてのその後の状況を、もしおばあちゃんが知っていたら、教えてほしいんです」
と言った
喜緒乃ちゃんのことは、当時の祖母であるおばあちゃんもよく知っていた。
前世のぼくの幼い頃、喜緒乃ちゃんは幼馴染ということで、おばあちゃんの家に住んでいるぼくのところに、よく遊びに来ていた。
その時に、当時の祖母と喜緒乃ちゃんはよく会っていたし、恋人どうしになってからも会ったことはあった。
「忠陸ちゃんと喜緒乃ちゃんの仲がうまくいくように応援しているわ」
と言ってくれたこともある。
ただ、前世でぼくが病気になってからあっという間にこの世を去ってしまった為、
「ぼく、喜緒乃ちゃんに振られたんだ」
という一言しか当時の祖母には言っていなかった。
いや、体が苦しくて、その一言を言うのがやっとだったのだ。
糸敷についても、
「喜緒乃ちゃんの新しい恋人はイケメンなんだ」
という一言しか言っていなかった。
名前も言っていなかったので、当時の祖母は、その恋人が誰なのかわからなかったと思う。
また、体が苦しかったので、寝取られたという話はしないままだった。
その為、ぼくが寝取られたことも当時の祖母は知らなかったと思う。
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