第27話 おじいちゃんとおばあちゃん
ぼくは、紗淑乃ちゃんに、
「なぜぼくの前では微笑んでくれないの?」
と聞いたことがあるのだが、その時の紗淑乃ちゃんは、
「定陸ちゃんのことが好きだから」
と無表情で応えたのだった。
ぼくは、ますます紗淑乃ちゃんのことがわからなくなってしまった。
そこで、ぼくは、紗淑乃ちゃんがぼくに「好き」だと言っているのは、ただの「あいさつ」としての位置付けで言っているだけなのだと認識することにした。
紗淑乃ちゃんの本心がわからない以上、そう認識するのが一番無難だと思ったからだ。
こうした状況が小学校一年生の今日まで続いてきた。
ぼくは前世のことを思い出した時、紗淑乃ちゃんは前世の喜緒乃ちゃんではないかと一瞬思った。
どちらもぼくの幼馴染で、共通点があるということでそう思ったのだ。
しかし、紗淑乃ちゃんと前世の喜緒乃ちゃんは性格が違い過ぎるし、年齢からすると喜緒乃ちゃん、と言うより喜緒乃さんと言った方がいいのだろうが、その喜緒乃さんは生きているはずなので、紗淑乃ちゃんは前世の喜緒乃ちゃんの生まれ変わりではないと、すぐに思い直した。
その点だけは、ホッとしているところだ。
ぼくは前世のことをおばあちゃんに話をしようと思った。
ここにいるおじいちゃんとおばあちゃんは、前世でのぼくの実の祖父母ではないかということを改めて思うようになった。
同姓同名というだけでは、自分の意識の混じり合いの結果そうなったということもありうるので、ぼくはそう思うのを躊躇していた。
しかし、言葉にはしにくいところがあるのだが、前世のことを思い出してから、時間が少しずつ経つにつれて、この二組の人たちが同じ雰囲気を持っていることをますます感じるようになってきた。
そこでぼくは、改めてこの二組は同一人物だと思うようになってきたのだった。
ぼくは、今日、これからいつものようにおばあちゃんの家に行き、話をすることに決めた。
おばあちゃんは、やさしく微笑んでぼくを迎えてくれた。
ぼくは、あいさつをして、リビングのソファーに座る。
おばあちゃんは冷たい飲み物を持ってきた後、ソファーに俺と向い合う形で座った。
ここまではいつもと同じだが、これからは違う・
ぼくは、飲み物を飲んだ後、おばあちゃんと向かい合うと、
「おばあちゃん、ぼくが今日、話すことはおかしなことだと思われるかもしれません。でも、ぼくにとってはとても大切な話なんです。どうか、聞いてくださいませんでしょうか? お願いします」
と真剣な表情で言った後、頭を下げた。
ぼくがおばあちゃんに対して真剣な表情をするのはこれが多分初めてのことだったと思う。
おばあちゃんは驚いていたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻り、
「定陸ちゃんがおかしなことを話すはずはないと思っているわ。定陸ちゃんの大切な話、しっかり聞くね」
と言ってくれた。
ぼくは、
「ありがとうございます」
と言った後、夜からこの朝にかけて、ぼくの心の底から前世の記憶が湧き出してきたことをおばあちゃんに話した。
内容が内容なので、ぼくのただの夢だと思われる可能性は大いにあったが、それでもぼくは話し続けた。
おばあちゃんはじっとぼくの話に耳を傾け続けている。
そして、ぼくは、話の最後に、
「ぼくの前世の記憶と今世の記憶が混じり合っている可能性はありますが、前世の祖父母の名前と、おじいちゃんとおばあちゃんの名前は、同じようですので、同一人物ではないかという思いを持っています」
と言った。
この話を最後にしたのは、話をする決断がなかなかできなかったからだ。
場合によっては、それこそただの妄想だと受け取られてしまうだろう。
ぼくは、そのことを用心しながらおばあちゃんの様子を窺ったのだが……。
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