第24話 前世のことを思い出す
ぼくは、萩森定陸(はぎもりさだりく)。小学校一年生。
夏休みに入ってしばらくして、ぼくは信じられない経験をした。
夜寝ようとした時、ぼくの心の中に、ぼくの経験したことのない記憶が湧き出してきたのだ。
どうやら前世というものの記憶らしい。
ぼくは、その前世というものの記憶については、すべてを思い出せたわけではなかったのだが、主要な出来事については、その多くを思い出すことができたように思う。
とはいうものの、ぼくはまだ小学校一年生の子供でしかない。
せっかく思い出すことができたのに、今の自分には理解できないことが多かった。
それでも何とか努力をした結果、次のことを理解することができた。
前世のぼくは倉春忠陸という名前。
実の両親は、前世のぼくの幼い頃に離婚し、母方の祖父母が前世のぼくを養うことになった。
前世のぼくには幼馴染がいたのだが、小学校六年生の卒業式を終えると、別のところへ引っ越して離れ離れに。
幼馴染とは、高校の入学式が終わった後、公園で再会。
その後、恋人どうしになったのだが、イケメンに寝取られて、破局を迎えた。
再度恋人どうしになろうと行動するも、あえなく撃沈。
寝取られたことにより心身に大きな打撃を受けた前世のぼくは、あっけなくこの世を去ってしまった……。
ぼくは自分で言うのもなんだが、「ませガキ」の方ではないかと思っている。
異性に対して恋をするということや、結婚することについては、幼稚園の時点である程度理解をしていた。
また、夫婦の不仲。離婚というものについても、幼稚園の時点である程度理解はしていた。
その為、ぼくは前世で、実の両親の仲が悪く、離婚したことを理解することができた。
そして、ぼくは前世で幼馴染に恋し、恋人どうしにはなれたものの、寝取られたことで別れてしまい、そのことにより、心と体に大きな打撃を受けて、この世を去ったことも理解することができた。
ただ、男女の間の恋というものが、具体的にどういうものかということまでは理解することができなかった。
キスや二人だけの世界についての具体的なことを、この歳で把握し、理解することは、困難なことなので、それは仕方がないだろう。
寝取られの意味についても、それが前世のぼくの心に大きな打撃を与えたことは認識できたのだが、具体的にどういうことなのか、ということについては把握することはできなかった。
しかし、いずれにしても、前世のぼくがみじめな境遇にあったということは十分理解をすることができた。
その中で、ぼくは気になることがあった。
前世のぼくは祖父母に育ててもらったのだが、今世のぼくの家のそばにも、同じ雰囲気を持っている年老いたおじいさんとおばあさんがいた。
今のぼくの母方の遠い親戚だ。
ぼくの母親は、このおじいさんとおばあさんに幼い頃に一度会ったことがあるので。疎遠ではあったものの、知らない仲というわけではなかったが、ぼくは会ったことが今までなかったし、そういう人たちがいることすら知らなかった。
その二人と前世の祖父母の名前は、両方とも、倉春翔一郎さん、そして、倉春居於里さん。
同姓同名なのだ。
前世の記憶と今世の記憶が混ざり合い、同姓同名だと認識してしまった可能性はあるので、今の時点では結論を出すことはできないが、同一人物である可能性はありそうだと思うようになってきた。
ぼくは今住んでいるこのまちとは別のまちで生まれ、幼稚園に入る直前にこのまちに両親とともにやってきた。
その頃、ぼくは既に物心がついていた。
ぼくの両親は、親戚の人たちから聞いた話では、結婚した後半年ぐらいまではラブラブな状態が続き、周囲からはうらやましがられていたのだが、その後、急速に夫婦の仲が悪化していったとのこと。
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