第23話 短い生涯を終える

 俺は喜緒乃ちゃんともう一度恋人どうしになることを夢見たが、無惨に打ち砕かれることになってしまった。


 しばらくの間、その場に手をついてうなだれていた俺だったが、その内、雨が降ってきた。


 雨が降ってきても、動く気力がなくなっていた俺。


 ギャルゲーであれば、俺のことを慕っていた女の子が、かさを差し出してきそうなところだ。


 しかし、現実は厳しい。


 そうした救けはあるわけがなく、さすがにずぶぬれになってきたので、俺はやむなく立ち上がり、なんとか家路についた。


 アパートに帰ると、シャワーを浴び、体を拭くと、寝間着を来てそのままベッドに入った。


 俺はしばらくの間、涙を流していたが、だんだん涙を流す気力もなくなっていった。


 そして、俺は気力をほとんど使い果たしてしまった。


 一学期の終業式はなんとか出席したものの、喜緒乃ちゃんと糸敷の仲睦まじそうな姿を見て、残り少なくなっていた気力まで奪われることになってしまった。


 俺はその後、急激に体調が悪くなり、学校から帰っても回復しそうにないので、病院に行ったのだが、即入院ということになった。


 心が壊れてしまったことにより、体の方も壊れ、病気になってしまったのだ。


 祖母が付き添いとしてきてくれて、その日から入院生活を送ることになったのだが……。


 俺の病状は、入院当初は小康状態になっていたのだが、入院三日目の頃から悪化し始めた。


 そして、入院してからわずか五日ほどしか経っていなのに、危篤状態になってしまった。


 俺は薄れゆく意識の中で、今まで育ててくれた祖父母に対し、二人を残してこの世を去ってしまうことを心の中で詫びるとともに、感謝をしていた。


 ただ、喜緒乃ちゃんについては、危篤状態になっても大いに心残りがあったし、寝取られたことに対する悔しさも残っていた。


 喜緒乃ちゃんとの仲はなぜこんな形になってしまったのだろうか?


 どうしてもこのことは思わざるをえない。


 いくら幼い頃からイケメンが好きだからと言って、こうも短期間に俺から糸敷に「乗り換え」をしてしまったことは、今の段階でもまだ信じきれないことだった。


 六月初旬のデートで、俺が喜緒乃ちゃんのほおに唇をつけた時は、俺に恋をするところまで行っていたはずだ。


 糸敷がいくらアプローチをしてきていたとしても、あの時の喜緒乃ちゃんの心の状態を維持できれば、糸敷に心を動かされるはずはなく、寝取られることはなかったと思うのだが……。


 そのことは、意識が朦朧とする中でも、俺の心から離れなかった。


 しかし、俺は生命の終わりが近づいてきていることを認識してくると、だんだん喜緒乃ちゃんのことを考えることが空しくなってきた。


 そして、このまま喜緒乃ちゃんに対する心残りや、悔しさを持ったままこの世を去ったら、来世でもまた同じ苦しみを味わうのではないかと思い始めた。


 俺もこの世の大多数の人が思っているように、前世を始めとした過去世や来世があるとは思っていなかったのだが、今、ここで危篤状態になってみると、来世の存在を信じたくなったのだ。


 俺のこの世での生きていられる時間は、もうあまり残されていないと思われる状況だったのだが、とにかく残りの時間は、来世での人生に期待を持つべきだと思うようになった。


 そこで俺は、来世が存在することを前提に、


「来世では俺のことだけを愛してくれる女性と結婚して、幸せになりたい!」


 ということを願いたいと思うようになっていた。


 また、喜緒乃ちゃんが俺に対して、


「忠陸ちゃんのことが好き」


「忠陸ちゃん、大好き」


「忠陸ちゃん、愛してる」


 と言っていて、態度でも俺に対してそういう意志を示していたにも関わらず、俺のことを裏切って、糸敷の恋人になってしまったので、俺は、


「俺と来世で結婚する女性は、言葉や態度では、うまく愛情を表現できなくてもいいので、俺のことを心の底から愛してほしい!」


 ということも願いたいと思うようになっていた。


 俺の意識は朦朧としていたので、こうした願いをすること自体困難になっていた。


 しかし、俺は最後の力を振り絞って、そうした状況を乗り越えていく。


 そして、この二点が来世で実現するように、強くお願いをしていった。


 もちろん俺の方は、その女性を心の底から愛していく。


 結婚当初の頃まではラブラブだったにも関わらず、その後、あっけなく破局を迎え、


 離婚をしてしまった実の両親のようなことは絶対にしたくないと思っていた。


 そして、その女性と相思相愛のまま、一緒に歳を取っていき、いつまでも仲良くしていく人生を歩んでいくのが理想だと思っていた。


 俺は来世についての強い願いを終えると、力尽き。意識を失っていった。


 それからあまり時間が経たない内に、俺は祖母に看取られながら、この世を去った。

 わずか十六歳の短い生涯だった。

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