第21話 イケメンに奪われた幼馴染
喜緒乃ちゃんと糸敷が、俺に対して得意げに話をしていたところによると、二人のなれそめは次のようなものだった。
糸敷は喜緒乃ちゃんと同じクラスになったことで、喜緒乃ちゃんのことを狙い始めた。
もともとモテる糸敷は、中学生の時も何人かの女子生徒と付き合っていたが、この時点ではすべての人と別れていたので、フリーだった。
高校に入ってからますますモテている糸敷は、しかし、遊びはするものの、特定の子と付き合うことはせず、喜緒乃ちゃんのことを狙い続けていた。
喜緒乃ちゃん一途ということなのだろう。
ここだけを見れば、そうとも言えるのかもしれない。
喜緒乃ちゃんは少なくともそう思っている。
二か月の間、俺と付き合ってきた喜緒乃ちゃん。
しかし、俺と付き合う原動力になっていたのは、俺自身はなかなか自覚できなかったものの、俺が「イケメン」になってきたと喜緒乃ちゃんが思っていたからだ。
その頃になると、喜緒乃ちゃんの方もクラスの中にいる糸敷というイケメンのことが気になりだしていた。
もともとイケメン好きの喜緒乃ちゃんは、次第に糸敷とあいさつをしたり、軽い話をしたりするようになっていた。
喜緒乃ちゃんには俺という恋人がいることを知っていた糸敷は、慎重に対応を検討し続けていたが、こうした喜緒乃ちゃんの対応から判断して、自分のものにできると思うようになった。
そして、五月下旬以降、糸敷は喜緒乃ちゃんに積極的に話しかけるようになったのだ。
それも甘い言葉で。
残念ながら、俺が思っても糸敷はイケメンだ。
そのイケメンである糸敷に本格的なアプローチをされ始めたことで、イケメン好きの喜緒乃ちゃんは俺から糸敷への「乗り換え」を検討し始めることになってしまった。
俺との唇と唇のキスを躊躇したのも、糸敷の存在が急激に喜緒乃ちゃんの心の中で大きくなっていたからだろう。
俺は糸敷の存在自体はイケメンとして知ってはいたが、喜緒乃ちゃんに大きな影響を与えていたことには全く気が付くことはなかった。
攻勢を強めた糸敷は、ついに喜緒乃ちゃんをデートに誘うことに成功する。
糸敷にとっては、もうこれで喜緒乃ちゃんの攻略はできたと思ったことだろう。
デートの日は、俺と喜緒乃ちゃんがデートをした翌週の休日。
つまり、喜緒乃ちゃんは俺とのデートを断り、糸敷とデートをすることを選択したのだ。
この時点で、俺との関係は壊れ始めたことになる。
そして、このデートの日、喜緒乃ちゃんと糸敷はキスどころか、一気に二人だけの世界に入ってしまった。
これ以降、喜緒乃ちゃんは糸敷の虜になってしまう。
俺と話をしても上の空だったのも、これが原因だったと俺は理解した。
この時点で俺と喜緒乃ちゃんの関係は壊れてしまったことになる。
しかし、俺はそのことを知らないまま。
喜緒乃ちゃんに色気が出始めたとは思っていたが、その理由が糸敷と二人だけの世界に入ったからだということが、当時の俺に理解できるわけはなかったのだ。
こうして、喜緒乃ちゃんと糸敷の仲は深まる一方だったのだが、何も知らない俺は、その内また喜緒乃ちゃんとデートはできるようになるだろうし、仲を深めていけるようになるだろうと思っていて、この後、大きな悲劇が待ち構えていることを想像することはできなかった。
その結果が、今の俺だ。
もう俺の心の大きな部分が壊れてしまったといっていい。
心身ともにボロボロだ。
寝取られという言葉は聞いたことはあったものの、これほど心と体を壊していくもので、つらくて苦しい思いをしていくものだということは、自分がその身になって初めてよく理解できるようになった。
理解をした時には、もう遅かったのだが……。
俺はその後もしばらくの間、泣き続けていた。
しかし、そうしている内に、
「もう一度喜緒乃ちゃんにアプローチをするべきだ」
という思いが湧き上がってきた。
喜緒乃ちゃんは、俺にとっては大切な幼馴染。
心の支えにもなっていた時期がある女性。
俺には喜緒乃ちゃん以外の女性は考えることはできないのだ。
今は糸敷の虜になっているが、絶対に俺の虜にさせていく!
そう決意した俺は、喜緒乃ちゃん宛てに手紙を書いた。
喜緒乃ちゃんへの熱い想いを、心血を注いでつづった。
そして、放課後、俺と二人で会ってほしいというお願いもその中につづった。
既に心身ともにボロボロになっていた俺。
しかし、最後の力を振り絞って、再び喜緒乃ちゃんと恋人どうしになる為に動き出していくのだった。
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