第19話 デートを断る幼馴染

 喜緒乃ちゃんは、今回のデートの最後に、俺に昼食のお弁当を作りたいと申し出てきた。


 いつも昼食はパンと牛乳だったので、手作りのお弁当というものにあこがれていた俺は、喜緒乃ちゃんのその申し出を受けることにした。


 ただ、負担が大きいと思ったので、当面は週二回ということにした。


 喜緒乃ちゃんの心がますます俺の方に傾いてきたことを俺は実感し、すぐに次回のデートの計画を練り始めることにした。


 次こそは必ず唇と唇を重ね合わせたキスをしたいと思っていた。


 そして、喜緒乃ちゃんにその意志を伝えたのだったのだが……。


 なんと、喜緒乃ちゃんは用事を理由に、デートを断ってきた。


 これは初めてのことだった。


 俺は喜緒乃ちゃんを束縛することになるので、その用事の中身は聞かなかった。


 次週は、デートができると思い、すぐに心を切り替えたのだ。


 俺は翌週の月曜日のお昼休みに、喜緒乃ちゃんに対してデートの申し込みに行ったのだが……。


 この日は喜緒乃ちゃんがお弁当を作ってきてくれる日ではなかったので、一緒に昼食を食べることはなかったのだが、デートの約束を取りつけたかった俺は、喜緒乃ちゃんの昼食が終わる頃を計算して、喜緒乃ちゃんの教室に向かった。


 喜緒乃ちゃんはちょうど昼食を終えていたところで、俺の呼び出しにはすぐに応じてくれた。


 しかし……。


 休日に会っていなかっただけだというのに、喜緒乃ちゃんからはなんとなくではあるものの、今まで俺が感じたことのない色気が漂ってきていた。


 この時の俺は、そのことの意味が全くわからなかった。


 でも、俺は自分の気のせいだと思い、喜緒乃ちゃんに聞くことはしなかった。


 そして、喜緒乃ちゃんは、ここでもまた、


「用事があるの」


 と言って俺の誘いを断ったのだが、


「ごめん。また今度誘ってね」


 と喜緒乃ちゃんが申し訳なさそうに言ったので、俺は、


 次こそ、喜緒乃ちゃんとデートができる!


 と思ってしまったのだ。


 それだけ俺は純粋だったと言えるし、喜緒乃ちゃんに溺れていたのだと思う、


 しかし、喜緒乃ちゃんが漂わせ始めた「色気」と、俺のデートの誘いを断ったことの二つが意味するところをここで理解していれば、大きな打撃を受けること自体は避けることができなかっただろうが、それでも致命的な打撃を受けるまでに喜緒乃ちゃんとは別れていたと思う。


 何も効果的な手を打つことができなかった俺は、結局、悲劇へ向かって一直線に進むしかなかったのだ。


 その日以降、喜緒乃ちゃんは電話でも、直に会っても、心ここにあらずという状態が続くようになった。


 お弁当作りも止めた。


 どこか疲れている様子だった。


 人生経験を積んできた人であれば、


「疲れているところもあるのかもしれない。でも、まだ二か月ほどしか経ていないので、それが理由だとは考えにくい。それよりも、誰かに心を奪われているような気がする。もしかすると、誰かと浮気をしているのでは?」


 と思うところだろう。


 しかし、俺はそのことを考えたことはなかった。

 この二か月ほどの間、俺たちは毎日接してきていたので、俺と付き合うことに疲れてきたのだと思うようになっていたのだ。


 俺は喜緒乃ちゃんとの付き合いについて、一度休養の期間を持つ必要があると思った。


 そうすれば、疲れも癒えて、関係をまた深めていけるようになると思っていたのだ。


 そこで俺は、断腸の思い出ではあったが、しばらく電話で話すのを止め、学校でもお弁当を作ってもらうことを正式に止めてもらい、会った時のあいさつ程度にとどめた。


 俺としては、好きな喜緒乃ちゃんと話すら満足できないのは苦痛だったが、将来のことを想い、耐え忍んだ。


 そして、終業式が近づいてきた頃、俺は、喜緒乃ちゃんにまた断られてしまう可能性もあったものの、


「ここまで待ったのだからもう大丈夫」


 と思い、喜緒乃ちゃんをデートに誘った。


 喜緒乃ちゃんは、それに対し、


「今度の休日の夕方なら空いてるわ」


 と応えてくれた。


 そして、俺と喜緒乃ちゃんは、今度の休日の夕方に駅前で会うと約束した。


 俺は、ここまで待った甲斐があると思い、うれしかった。


 喜緒乃ちゃんが今回のデートをOKしてくれたということは、喜緒乃ちゃんの心がまた俺に傾きだしたのだと思い、その喜びは大きくなっていく。


 俺は喜緒乃ちゃんとの今後の関係に大きな希望を持てるようになった。


 今まで止まっていた喜緒乃ちゃんとの関係についての大きな進展を期待して、俺は明日のデートの準備をしていくのだった。


 そして、俺はデート当日を迎えることになったのだが……。

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