第18話 恋人どうし

 俺と喜緒乃ちゃんは恋人どうしになった。


 それからの俺たちは、学校ではクラスが違うこともあり、ほとんど話をする機会はなかった。


 俺の住んでいるアパ-トからの方が、喜緒乃ちゃんの家からよりも学校に近かったが、喜緒乃ちゃんの家の通学路は俺のアパートを通らないので、喜緒乃ちゃんが毎朝、俺のアパートに寄って、俺と一緒に一緒学校に行くというイベントが発生させることは困難だった。


 俺としては、ギャルゲーをプレイしていた中で、あこがれのシチュエーションの一つだったので、それが難しいとなると落胆せざるをえなかった。


 俺が喜緒乃ちゃんに無理にお願いすればしてくれたのかもしれないが、喜緒乃ちゃんにとっては、遠回りとなってしまうので、負担をかけることになってしまう。


 放課後も、喜緒乃ちゃんはテニス部で俺は帰宅部なので、基本的に帰りの時間は会わない。


 そして、一緒に帰ることができたにしても、学校から五分程度歩いたところで分岐点がある。


 そこで俺のアパートへの道と、喜緒乃ちゃんの家への道が分岐し。そこから喜緒乃ちゃんは二十分ほど歩くことになる。


 その為、話をする時間は限られてしまう。


 このように平日は二人だけで会う時間が作れなかった俺たちだが、夜は電話で毎日話をするようにしていた。


 そして、休日は、必ずデートをすることになった。


 テーマパーク、映画館、港が見える公園……。


 俺はデートを成功させる為、以前から研究をしてきたが、それが実り、喜緒乃ちゃんも喜んでくれた。


 テスト前は、一緒にオ俺のアパートで勉強会もした。


 喜緒乃ちゃんとの距離が近くなるので、胸のドキドキが大きくなったりして、結構つらいところもあったが、それを乗り越えて、俺たちは二人とも学校内では、五位以内に入ることができた。


 俺が学校内で一位、喜緒乃ちゃんは二位。


 お互いにその成果を俺のアパートで祝福し合った。


 こうして俺たちは、仲を深めていた。


 まだキスには到達していない状態だったではあったものの、喜緒乃ちゃんは、俺に対して、


「好きだよ、喜緒乃ちゃん、大好き、愛してる」


 と言ってくれるようになり、心が俺の方に傾いているという手応えを感じていた。


 喜緒乃ちゃんは俺に対して、電話でも、デートの時も必ずそうした「愛の言葉」を言ってくれるようになり、俺の方もそうした「愛の言葉」を言っていたので、傍から見ていれば、立派な恋人どうしだと言ってもいいくらいになったと思う。


 しかし、キスまで進もうという心の準備は、俺の方はできていたのだが、喜緒乃ちゃんの方はまだまだできていないように思えた。


 そこで、俺は喜緒乃ちゃんに対し、より一層熱い想いを伝えるようにして、喜緒乃ちゃんの変化を待った。


 そして、六月の初旬に、港を眺められる公園でデートをしたのだが、夕暮れ時になったところで、俺と喜緒乃ちゃんはいい雰囲気になっていた。


「忠陸ちゃん、好き」


「俺も喜緒乃ちゃんが好きだ」


 と俺たちは言いながら手を握り合っていたので、今日こそキスに進んでいけそうだと思っていた。


 俺はそれでも一旦はキスするのを躊躇した。


 また喜緒乃ちゃんが躊躇するのでは、と思ったからだ。


 しかし、喜緒乃ちゃんのかわいい顔を眺めていくと、キスをしたくてたまらない気持ちになってくる。


 喜緒乃ちゃんを見ると、喜緒乃ちゃんの方も俺とのキスを受けてくれる態勢に入ってくれたと思ったので。


「喜緒乃ちゃん、俺、ここでキスをしたい」


 と喜緒乃ちゃんにはっきりと言った。


 それに対し、喜緒乃ちゃんは躊躇する様子を抑えようとはしていたが、残念ながらそれを抑えることはできてはいなかった。


「ごめん。忠陸ちゃんのことは好きで、そう言ってくれるのはうれしいんだけど、まだ恥ずかしくて心の準備が整わないの」


 と喜緒乃ちゃんは言ったので、俺は落胆せざるをえなかった。


 しかし、喜緒乃ちゃんは続けて、


「キスは、唇には恥ずかしいのでまだだめだけと、わたしのほおにしてくれるのならいいわ」


 と言ってくれた。


 俺にとっては、それでも大きな前進だった。


 俺は、


「ありがとう。喜緒乃ちゃん」


 と言うと、喜緒乃ちゃんのほおに唇を近づけ、唇をつけていく。


 喜緒乃ちゃんの唇には俺の唇をつけることはできなかったが、これで仲が一層深くなったことには違いないと思っていた。


「忠陸ちゃん、ありがとう」


 と喜緒乃ちゃんは恥ずかしがりながらも微笑んでいたので、喜んでくれているのだと思う。


 このデートが終了した後、俺は、次回は唇と唇を重ね合わせたいと思うのだった。

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