第16話 幼馴染との再会

 俺の前の方に女子生徒が一人で歩いている。


 俺の高校の制服を着ていた。


 同学年生のようだ。


 その後ろ姿が、喜緒乃ちゃんの後ろ姿と同じように思えた。


 喜緒乃ちゃんでは?


 俺はすぐにそう思った。


 しかし、喜緒乃ちゃんがこういうところを歩いているわけがないとも同時に思った。


 どうするか?


 もし、声をかけて別人だった場合、これほど気まずいことはない。


 恥ずかしさで、数日は苦しむことになるだろう。


 それは嫌だ。


 でも、彼女が喜緒乃ちゃんで。声をかけないでそのまま俺が家の帰ってしまったとしたら、今度は夜、


「何で声をかけなかったのだろう……」


 ということで苦しむことになる。


 俺と同じ高校に彼女は通っているようなので、時間をかけていけば、いずれは話ができるようになるかもしれない。


 しかし、中学校の三年間、喜緒乃ちゃんへの想いを強く持ち続けていた俺にとっては、もう一日たりとも待つことはできないところで、声をかけないと言う選択肢はありえなくなっていた。


 ここは声をかけるしかない!


 決断をした俺は、その女子生徒に対して、


「もしかして、喜緒乃ちゃん?」


 と声をかけた。


 いきなり過ぎたかもしれない。


 しかし、俺としては、まず彼女に声をかけることを優先した結果だった。


 すると、その女子生徒は立ち止まり、振り向いた。


 そして、


「古板喜緒乃ですけど、どちらさまでしょうか?」


 と聞いてくる。


 俺は彼女の貌を見た瞬間、衝撃が走った。


 なんというかわいい子だろう……。


 そう思うと同時に、喜緒乃ちゃんだということが認識できて、熱いものがこみあげてきた。


 やっと、やっと、喜緒乃ちゃんに会えた!


 涙がこぼれそうになってくる。


 俺はなんとか心を整えると、


「喜緒乃ちゃん、俺は忠陸だよ。覚えてる?」


 と彼女に聞く。


 ここでもし忘れていたと言われたら、打壁を受けるところだ。


 彼女は、驚いた様子。


 そして、


「忠陸ちゃんはわたしの幼馴染で、もちろん覚えているけど、まさか、忠陸ちゃんなの?」


 と言ってきた。


 俺は、喜緒乃ちゃんが俺のことを覚えていてくれたことにホッとすると、


「そうだよ。忠陸だよ。俺、喜緒乃ちゃんと再会することをずっと待ち望んでいたんだ」


 と言った。


 喜緒乃ちゃんはこの言葉に対して、どう応えてくれるだろうか?


 そう思っていると、喜緒乃ちゃんは、


「わたしも忠陸ちゃんと再会したいと思っていたのよ」


 と応えてくれた。


 喜緒乃ちゃんも俺と再会したいと思っていてくれていた。


 俺の心は沸き立っていく。


 しかし、俺は、俺と喜緒乃ちゃんの、


「再会したい」


 という認識に差があることに気がついていなかった。


 俺の方は、喜緒乃ちゃんに恋するという形にまでその想いは強くなってきていたのに対し、喜緒乃ちゃんの方は、俺のことを幼馴染としての認識から変わってはいなかった。


 俺に会いたかったのは本当だと思う。


 でも、それは俺が幼馴染だからという理由でしかなかったのだ。


 もし、ここで喜緒乃ちゃんの俺に対する認識に気づいていれば、その後の悲劇は回避できたかもしれない。


 しかし、俺は、喜緒乃ちゃんと再会できたことで、冷静な判断ができなくなっていた。


 困難だと思っていた喜緒乃ちゃんとの再会ができたことで、ここは一気に恋人どうしになることができるのではないかと思ったのだ。


 また、ここで恋人どうしになれなければ、喜緒乃ちゃんを狙う男子生徒がこれからどんどん出てくるだろうと思われるので、そういった男子生徒に喜緒乃ちゃんが取られてしまうというあせりも急激に湧いてきていた。


 本来なら、三年ぶりの再会ということで、その余韻に浸るべきなのだろう。


 でも、俺には、その心の余裕は全くなかった。


 俺は、


「喜緒乃ちゃん、俺、お願いしたいことがあるのだけど」


 と喜緒乃ちゃんに切り出した。

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