第15話 幼馴染と再会したい
校庭では桜が満開。
まだ風は冷たいところはあるものの、ようやく春が来たという気持ちになる。
俺は高校の入学式にやってきた。
今日は、入学式の始まる一時間前には来ようと思っていた。
それは、喜緒乃ちゃんとこの校庭で会う為。
俺はそのことに大きな期待をするようになっていたのだ。
しかし……。
喜緒乃ちゃんと再会することを期待するあまり、なかなか寝ることができず、寝ることができたのは、午前三時頃になってしまった。
そして、目覚めたのは午前七時四十分頃。
あわてた俺は、すぐにシャワーを浴び、朝食をとり、身支度を整えた後、高校に向かったのだが、着いた時には、入学式の始まる十分ほど前。
既に生徒の多くが入学式の会場に向かっていた。
これでは喜緒乃ちゃんがこの学校にいたとしても、すぐに会うことはできない。
落胆した俺は、トボトボと歩いて会場に向かうしかなかった。
その後、教室に行った。
クラスでは自己紹介が行われた。
この自己紹介というのは、その後少なくとも一学期の中で、クラスの中での自分の立ち位置というものを決める重要なことの一つだということは、俺も認識をしていた。
しかし、認識はしていても、俺にはそのことを深く考える余裕はなかった。
このクラスの中に、喜緒乃ちゃんがいないかどうか。
俺の心の中は、そのことで一杯になっていたのだ。
俺の順番が回ってきても、
「倉春です。よろしく」
と言っただけだった。
こういうことしか言わない場合、目立たない人間として扱われることも多いと聞いていたが、俺にとってはどうでもいいことだった。
俺のことを知っている人間がこの学校にはいない。
イジメの対象になる可能性が限りなく低くなるということは。それだけ俺にとってはありがたいことだった。
目立たなくなれば、なおさらその可能性は低くなる。
でも、今の俺にとっては、そのことさえもどうでもいいことだった。
喜緒乃ちゃんがこのクラスにいるかどうか。
それだけが俺のすべてだったのだ。
結局、このクラスには喜緒乃ちゃんはいなかった。
俺は落胆せざるをえなかった。
自己紹介で自分の名前しか言わなかったこともあって、休み時間に俺に話しかけてくる人は、男性・女性の別なく誰もいなかった。
もちろん俺の方からも話しかけることはない。
目立ってまたイジメの対象になるよりは、はるかにましだと思っていた。
このクラスには、かわいい子が結構いて、その子たちを狙っていると思われる男子たちが、休み時間の度に話しかけに行っていた。
まだ高校に入った初日だというのに、熱心なことだと思っていた。
これから毎日のようにアプローチが続き、やがて、カップルが誕生していくのだろう。
しかし、俺は喜緒乃ちゃんのことばかり考えていたので、クラスの女子生徒に興味が湧くことはなかった。
この日、俺は喜緒乃ちゃんが学校内にいるかどうか、休み時間と放課後に探してみた。
細かいところまで確認できたわけではないのだが、今のところはそれらしい女子生徒はいなかった。
「この学校にはいそうもないか……」
落胆した俺は、一人でトボトボと歩きながら家路についた。
この学校に喜緒乃ちゃんがいる可能性はゼロ。
そうなると、これから俺は何を目標として生きていけばいいのか、わからなかった。
身も心もボロボロ。
とにかくアパートに帰って寝たい。
そう思い、公園の中を通っていく。
学校から俺の家へは歩いて十分ほどなのだが、公園を通る経路と通らない経路がある。
公園を通らない方が少しだけ学校に近いのだが、誤差範囲なので、その時々の気分によって経路を変えるつもりだった。
今日は、桜が満開になっているその公園を通っていた。
きれいな桜を眺めながら帰ることによって、少しでも落胆した自分の心を慰めようとしていたのだが……。
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