第14話 一人暮らしへ
俺の通う中学校の中には、かわいいと思う女子生徒はいたものの、喜緒乃ちゃんのことしか想っていなかった俺は、心を動かすことはなかった。
そして、俺は女子生徒に告白されるということもなかった。
孤独だったと言っていい。
クラスの中では何組ものカップルができていて、いずれも楽しそうに過ごしていた。
そういう人たちを見ていると、悲しい思いをどうしてもせざるをえなかった。
喜緒乃ちゃんがそばにいてくれていたら、今頃は恋人どうしになって、楽しい思いをしたというのに、という思いは何十度もしたと言っていい。
夜、ベッドに横たわっている時、涙を流すことも多かった。
俺は春休みになるとこれから通う高校で、喜緒乃ちゃんと再会することを夢見るようになった。
そして、俺の心の中では、その期待が一日ごとに高まっていった。
確率的には、ほとんどありえない話だと思う気持ちもあったものの、それ以上に期待は高まっていく。
それだけ俺は喜緒乃ちゃんと会いたくてたまらなかったのだ。
一方、俺は。高校入学を機に一人ぐらしをすることになった。
俺が祖父母と住んでいるところは、俺が通おうとしている高校から二時間以上かかるところなので、通学時間の長さを心配した祖父母が、高校の近くのアパートから通うことを提案してきた。
俺は、祖父母の金銭的な負担になるし、祖父母二人だけになることに対しての心配があったので、断ろうとしたのだが、祖母は、
「わたしたちのことは心配することはないわ。金善的な問題はないし、わたしたちも寂しくはなるけど、それは耐えていくので安心して。それよりもお前の環境が大事。高校から近い方が、お前も楽なはずだわ。高校の三年間は、今のお前にとっては長いものに思えるかもしれないけど、実際、高校生になると、短いと思うようになっていくのよ。だから、わたしたちとしてはなるべく時間を有意義に使ってほしいと思っている。その一環として、わたしたちはお前に高校に近いアパートに住むことを提案することにしたの」
と言った。
祖母は祖父とこのことについて話し合っていたのだろう。
祖父も祖母の話にうなずいている。
祖父は中堅IT会社の取締役。
仕事人間で、夜いつも遅い為、ぼくが接する機会は少なかった。
そして、寡黙な人で、ぼくは向き合っただけでも緊張してしまう。
その為、なおさら話をする機会は少なくなっていた。
でも、いつも祖母を通じて、ぼくの状況を聞いてくれている。
祖母を通じて、ぼくのことを配慮してくれていたのだ。
こうした時には。親身になって検討をしてくれる。
俺は祖父母の提案を受け入れて、高校の近くのアパートから通うことになった。
豪華なところはないが、ます普通のアパートといったところで、トイレや風呂もちゃんとついている。
家賃も手ごろというところ。
俺は一人暮らしをさせてくれる祖父母に感謝をした。
一人ぐらし、
俺は祖母に幼い頃から料理を教えてみもらっていたので、それなりのものは作れるようになっていた。
また、そうじも洗濯も苦にはしていない。
とはいうものの、これからは全部自分がこなしていかなければならない。
苦というところではない。
しかし、面倒なことだとは思うし、気が重いところはどうしてもある。
そう思っている内に、俺が一人ぐらしを始めたということは、喜緒乃ちゃんと再会する時が近づいてきたということではないのだろうか、と思うようになってきた。
俺のただの夢想なのかもしれないと最初は思っていた。
しかし、何度も繰り返しそう思っていると、俺の心はそのことで一杯になり、実現可能なことだとだんだん思うようになっていく。
そして、喜緒乃ちゃんが通い妻、あるいは俺と同棲という形で、俺との仲を深めていくのでは、というところまで思うようになっていった。
高校の入学式の前日。
俺の引っ越しを手伝ってくれた祖父母と俺は一緒に晩ご飯を食べていた。
そして、食べ終わった後、俺は祖父母に対して、
「おじいちゃん、おばあちゃん、今までどうもありがとう」
と言って、改めて感謝をした。
祖父母は、正式には俺の両親になるのだが、俺としては、
「お父様、お母様」
と呼ぶよりも、
「おじいちゃん、おばあちゃん」
と呼ぶ方が呼びやすい。
祖父母もこの呼び方の方がうれしいと言っていたので、今まで、
「おじいちゃん、おばあちゃん」
と呼び続けていたのだった。
祖父母は、俺の言葉に涙を流しながら、
「わたしたちはお前の幸せを心から願っているわ」
とやさしく言ってくれた後、家に帰って行った。
俺は涙をこぼしながら、二人を見送っていく。
そして、この時から、俺はこのアパートで一人ぐらしを始めることになった。
俺は明日の入学式に向けて、心を切り替える。
その日の夜遅く、俺は喜緒乃ちゃんと再会することに対する期待をさらに高めていく。
もう喜緒乃ちゃんと再会することが決まったかのように思うようにもなっていた。
そして、高校の入学式を迎えることになった。
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