第9話 実の両親の離婚と幼馴染

 俺の父親は、付き合っている女性とすぐにでも結婚したかった。


 その為、離婚したいと俺の母親に対して繰り返し言ってきていたが、今まではそれに応じることはなかった。


 このまま離婚の話は長期化していくと思われたのだが、俺の母親の方も相手を作ったことで、局面は大きく変わることになる。


 ほどなく二人の間では、離婚することに合意した。


 こうなると後は俺の親権をどうするかというところになる。


 普通だったら、どちらか一方が親権を持つものだが、なんと二人とも親権を放棄してしまっったのだ。


 このことに対しては、お互いの祖父母とも俺の両親に対して怒ると同時に、離婚を翻意するように説得を試みたが、既に相手との生活におぼれてしまっている二人には、全く通じることはなかった。


 その結果、親権については、お互いの祖父母どうしの協議で決めざるををえない状況になってしまった。


 そして、二人への説得をあきらめた祖父母たちの協議の結果、俺が母方の祖父母の養子になることで、俺の親権を母方の祖父母が持つことになった。


 母方の祖父の名前は倉春翔一郎、祖母の名前は倉春居於里。


 血筋の上では俺の祖父母ということには変わりはないが、正式には両親になる二人。


 俺の姓は倉春に変わることになり、倉春忠陸という姓名になった。


 こうして俺の両親の離婚は成立した。


 それと同時に俺の母親は転職して、恋人と同棲することになった。


 やがて、この二人はそれぞれの恋人と再婚し、子供を作っていくことになる。


 しかし、この二人はお互いにそれぞれの両親に対して、絶縁を宣言した為、音信不通の状態になってしまった。


 全くもって自分勝手な人たちだと言わざるをえない。


 生まれてからすぐと言っていいほどの時期で既に悲惨な状況になってしまった俺。


 ただ、俺には母方の祖母がいた、


 以前からこの二人の関係を心配し、俺のことを親族の中で一番心配してくれていた祖母。


 両親に捨てられた形になった俺だが、養子とはいうもののその祖母の子供になれたことだけはよかったと思う。


 ただ、両親の離婚が成立した当時の俺はまだ一歳半の子供でしかなく、実の両親が離婚して俺のそばにいないということの厳しさを、まだ身に染みて味わっていたわけではなかった。


 そのことを味わい始めるのは幼稚園に入ってからだ。


 俺は幼稚園に入ると、実の両親が離婚してしまい、一緒に住んでいないということで、イジメの対象になってしまった。


 そして、あっという間に孤立していく。


 ここで初めて俺は、実の両親がそばにいない厳しさを味わうことになった。


 俺は、イジメられた当初は悔し涙を流したものの、すぐに立ち直った。


 俺には俺を愛してくれる祖母がいる。


 祖母の為にも、こんなことで落ち込んでいるわけにはいかないと思った俺は、心ない言葉をかけられても、


「ぼくは実の両親とは、一緒に住むことはできていないよ。でも、なんでそれでイジメられなきゃならないんだ! ぼくのそばには、いつもぼくのことを大切にしてくれるおばあちゃんがいる。ぼくにはそれで十分なんだよ!」


 と言って、毅然とした態度を示すようになった。その結果、イジメ自体はなくならなかったものの、状況は改善の方向に向かうことになった。


 そんな中、俺の友達になってくれたのが喜緒乃ちゃんだった。


 状況は改善してきたとは言っても、依然として孤立していた俺にはありがたい存在だった。

 

 喜緒乃ちゃんとは家が隣どうしというわけではなく、三百メートルほど離れていたのだが、それでもお互いの家で遊ぶ間柄になった。


 一緒にアニメを観たり、ゲームをしたりして楽しい時間を過ごしていた。


 俺は喜緒乃ちゃんに対して、好意を持つようになり、「好き」だという気持ちを持つようになっていった。


 恋という意味での「好き」とは違い、幼馴染としての「好き」という意味ではあったと思うのだが、それでも普通の人に対しての「好き」という意味合いとは違っていたことは言えると思うので、この時点で既に俺は初恋を迎えていたのかもしれない。


 喜緒乃ちゃんの方は、俺に対して、どういう意識を持っていたのかはわからない。


 しかし、俺と楽しく遊んでいたので、俺に対する好意は持っていたと思う。


 そして、幼馴染としての「好き」という気持ちも持ち始めていたと思う。

 

 ただ、喜緒乃ちゃんは、気になることを言っていた。


「わたし、将来はイケメンと恋人どうしになり、結婚するの」


 俺と会う度に言っていた言葉だが、当時の俺は大して気にすることはなかった。


 同年代の子供たちに比べると、両親の離婚のことがあった為。「結婚」「離婚」と言う言葉に対して敏感なところはあったものの、思春期を迎えていない俺には、自分に関係があるものとして、考えられるものではなかったからだ。


 今思うと、この時点で喜緒乃ちゃんとは離れるべきだったのだろう。


 しかし、この当時の俺は、将来のことを予想することはできず、喜緒乃ちゃんと仲良く過ごしていった。

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