第8話 離婚へ向けて動き出す実の両親
祖母はこの時点で、二人はやがて離婚することになると思っていた。
そう思うと、どうしてもこの二人のことを心から祝福する気にはなれなかったのだ。
それでも祖母は、自分が思っていることが、思い過ごしであることを誰よりも願っていた。
結婚式を挙げてから一年ほどが経ち、俺が産まれた。
両親の苗字は萩井(はぎい)で、忠陸という名前がつけられたので、俺は萩井忠陸という姓名になった。
結婚式以後も俺の両親のラブラブな状態は続いていた。
俺の父親は、育児についての知識を頭の中に入れ、俺が産まれてからは、その知識を実践していった。
自分と一緒に育児をきちんと行ってくれるので、俺の母親が持つ俺の父親への愛情は増すことはあっても減ることはなかった。
このまま進んで行くことができたら、どんなに幸せだったことだろう……。
破局は、ある日突然やってきた。
俺が生まれて一年ほどが経った頃、俺の父親がいきなり俺の母親に対して離婚の話を持ち出したのだ。
俺の父親は、俺の母親が妊娠している時、他の会社の美人である女性と親しくなった。
最初は一緒に食事をするぐらいの仲だったようだが、俺が生まれた後、しばらくすると深い仲になっていった。
自分の妻には、
「育児を率先して行う男性」
というプラスの面を強調していたのだが、内心は、
「育児をなぜ俺が手伝わなければならないんだ」
と思っていたようだ。
そして、
「俺はあいつと結婚すべきではなかったんだ。結婚してからわかったんだけど、あいつとはフィーリングが合わないんだ。幼い頃からあいつと一緒にいたというのに、なんでこんな初歩的なことさえも理解していなかったんだろう……」
ということも思っていたようだ。
フィーリングが合う、合わない、ということ。
それは、男女の仲において、とても重要なことだと思う。
祖母はそのことを懸念していたのだが、その懸念通りの展開になってしまった。
そうした愚痴をその女性が聞いている内に、
「自分が癒してあげなければ」
という気持ちになったようで、それが俺の父親に心が傾くきっかけになったようだった。
しかも、俺の父親はイケメンで優秀。
その女性が俺の父親に心を奪われていくのも仕方がないことだったのだろう。
俺の母親はいきなりそんなことを言われても、当然OKをするわけがない。
離婚の話は断った。
しかし、関係は一気に悪化しまう。
俺の父親は、その日以降、家に帰らなくなった。
それと同時に転職もした。
俺の母親は育児休暇をとっていたが、もうそろそろ職場に復帰する予定。
そうなると、また一緒の職場で働くことになる。
それが嫌だというのが転職の最大の理由だろう。
俺の父親は優秀なので、転職先には事欠かない。
一か月前に転職先を決め、この日を迎えていた。
俺の母親は転職の話自体は聞いていた。
しかし、その転職の理由については、俺の父親が、
「子供の為に。より良い条件の会社に行きたい」
と言っていたのをそのまま信じていた。
それも理由の一つではあったのだろう。
でも、
「同じ職場では働きたくない」
という転職の最大の理由について、俺の母親が認識したのは。俺の父親がこの家からいなくなった後だった。
俺の母親は、その日から三日ほどはずっと泣き続けていた。
やがて、涙を拭った俺の母親は、職場に復帰する。
俺はこの時、母方の祖母に預けられることになった。
ここで、仕事に没頭すれば俺の母親は十分賞賛に値することになっただろう。
しかし……。
俺の母親は、他の会社のイケメンと深い仲になった。
俺の父親の場合と同じで、最初は愚痴を聞いてもらっている内、その男性に好意を持つようになり、だんだん深い仲になってしまったということだ。
俺の母親はそのイケメンに夢中になり。俺の父親、そして、俺のことなどどうでもいいと思うようになっていった。
こうして俺の父親と母親は離婚に向けて動き出すことになった。
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