第7話 実の両親の結婚

 その日の夜。


 俺は自分の部屋のベッドの上で泣き伏していた。


 俺の幼馴染で恋人の喜緒乃ちゃん。


 それがあろうことか、同学年生の糸敷に寝取られてしまったのだ。


 しかも、なんと俺の目の前でキスをし、手をつないで一緒にホテルに入っていったのだ。


 これ以上の屈辱はない。


 なんで、なんで、こんなことに……。


 悔しくてたまらない。




 俺は今、アパートで一人ぐらしをしている。


 俺の家庭環境は複雑だ。


 俺は馴れ初めを中心とした両親についての話を、俺の祖母や周囲の人たちから聞いていた。




 両親は同い年。


 同じ学区に住んでいたのだが、知り合ったのは小学校三年生の時。


 同じクラスになったのがきっかけだ。


 すぐにお互い、好意を持ち合う関係になっていく。


 そして、小学校六年生の時に、俺の父親が俺の母親に告白して恋人どうしになった。


 その後は、学生時代を通じて美男美女のラブラブカップルとして周囲に祝福されたり、うらやましがれたりして過ごしていった。


 二人の人気は、二人が付き合っていることがわかっているのにも関わらず高いものだった。


 難易度は高いと理解していても、告白をして、父親、あるいは母親の恋人になりたいと思う人たちは決して少ないものではなかった。


 ただ、そうした人たちの想いは通じることはなく、二人のラブラブぶりに、悔し涙を流すことしかできなかった。


 周囲の間では、二人が結婚するのは既定路線だと思われていた。


 お互いの両親も、小学校六年生の時点で二人の仲を認めていた。


 しかし、この中で唯一、仲を認めつつも懸念を持って」いた人がいた。


 俺の母親の母親、すなわち母方の祖母だ。


 二人の関係がどうも上辺だけのもので、極論するとお互いの容姿が好きなだけなのでは、と思えて仕方がなかったとのこと。


 そうした話を俺は祖母から聞いたことがある。


 二人は同じ会社に入って一年後に結婚することを決意することになるのだが、周囲が祝福ムードに包まれている中、祖母だけは、


「あなたたちは、長年付き合っているけど、結局、上辺でしかお互いを理解することしかできないまま来てしまっている。あなたたちはお互いのことをよく理解する必要があるとわたしは思うの。そして、お互いにフィーリングが合っているかどうかを確認する必要がある。そうしたことができない限り、わたしとしてはあなたたちの結婚に賛成はできないの。今はラブラブで幸せかもしれないけれど、一緒に暮らし始めたら、お互いと向き合わなければならなくなる。お互いの嫌なところがだんだんわかってきて、愛し合っていたのが逆に憎しみ合うようになることさえありうるの。今のままだと、結婚しても一年ぐらいはいいだろうけど、その内お互いが嫌になって離婚しまう可能性が強いと思っているわ。わたしとしては、すぐに結婚するのではなくて、これから三年ほど時間をかけて、お互いのことをきちんと理解し、フィーリングが合っているかどうかを確認した上で結婚してほしいと思っているの」


 と言って、結婚に「待った」をかけていた。


 しかし、結婚に「待った:をかけていたのは、祖母だけだった。


 結局、祖母は結婚に賛成していた周囲の人たちと、


「わたしたちはラブラブだから大丈夫」


 という二人に押し切られる形で結婚を認めざるをえなかった。


 結婚式は盛大に行われ、出席者たちは二人を祝福した。


 出席者たちは二人が幸せな家庭を築くだろうと思っていた。


 新郎新婦である俺の両親もそう思っていた。


 ただ、祖母だけは、祝福はしていたものの、浮かない表情だった。


 結局のところ、この二人は上辺でしかお互いを理解しないまま結婚式を迎えてしまっていたからだ。




(あとがき)


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