第1話 俺は寝取られて涙する

 俺は倉春忠陸(くらはるただりく)。高校一年生。


 俺には才色兼備な幼馴染がいる。


 名前は、古板喜緒乃(ふるいたきおの)ちゃん。


 幼稚園の頃からの知り合いだ。


 しかも、ただの幼馴染ではなく、高校一年生の入学式の日から俺の恋人になっている。


 俺たちはこれから夏休みを迎えようとしていた。


 夏休みになったら、喜緒乃ちゃんとたくさん思い出を作ろうと思っていたのだが……。


 今、俺の前では信じられないことが展開されていた。


 喜緒乃ちゃんとイケメンが、俺の目の前でキスをしている。


 うっとりした表情の喜緒乃ちゃん。


 喜緒乃ちゃんのキスの相手は俺だったはずなのに……。


 俺は、


「喜緒乃ちゃん、俺は喜緒乃ちゃんのことが好きだし、喜緒乃ちゃんも俺のことを好きだって言ってくれたじゃないか。それなのに、なぜこんな仕打ちを俺にするんだ。酷すぎる。あまりにも酷すぎる……」


 と言いながら、目から涙をこぼし始めていた。




 一学期の終業式を間近にしたある日の夕方。


 俺は喜緒乃ちゃんと駅前で会うことになっていた。


 喜緒乃ちゃんからのお誘いだ。


 久しぶりのデートと言ってもいいのだろうか?


 六月初旬にデートしたのを最後に、デートをしていない俺たち。


 俺はそれからもデートに喜緒乃ちゃんを誘っていたのだが、喜緒乃ちゃんは忙しいという理由でOKしなくなってしまっていたのだ。


 俺は、喜緒乃ちゃんが俺との付き合いに疲れてきたのだと思ったので、一度休養の時間を持つことにした。


 その時までに、俺は喜緒乃ちゃんのほおに唇をつけるというところまでは到達していた。


 しかし、唇と唇を重ね合わせるというキスについてはまだできていない。


 もともと俺としては、デートを重ねていき、幼馴染としての意識から恋人どうしとしての意識に変化してきたところで、唇と唇を重ね合わせるキスをしたいと思っていた。


 というのも、俺たちは幼馴染なので親しい仲ではあり、そして、お互いのことが恋という意味で好きになってきたので、付き合うことにしたのだが、その熱量はまだまだ足りないところがあった。


 お互い、幼馴染としての意識の方がまだまだ強い。


 本物の恋人どうしにこの関係を発展していく為にはデートを重ね、意識を変化させるしかないと想っていたのだ。


 俺たちはそのことで意見が一致したので、休日になると、時間の長さはその時々によって違っていたのだが、デートを繰り返してきた。


 六月の初旬になる頃には、お互い、


「喜緒乃ちゃん、好き」


「わたしも忠陸ちゃんのことが好き」


 という愛の言葉を交わすことができるようになっていたし、喜緒乃ちゃんのほおに唇をつけるところまでは到達することができた。


 俺も喜緒乃ちゃんも、幼馴染としての意識を脱出し、本当の意味での恋人どうしに近づいてきたのだ。


 ここまでくれば、唇と唇を重ね合わせるキスまで後少し。


 そして、このキスをすることができれば、次は恋人としての最高の段階の一つへと入っていくことを目標にすることができる。


 俺はこれらのことをこの夏休みの間に達成したいと思っていた。


 できれば夏休みに入って一週間以内に、デートの帰り道にこのキスをした後、そのまま俺の家、もしくは、男性と女性の仲を進めていくホテルで二人だけの世界に入っていくのが理想だった。


 その後は、会う度にこのキスをして、二人だけの世界に入っていき、親睦を深めていく。


 そうすれば、冬休みまでの間に婚約をすることができるし、高校卒業後すぐに入籍もできるだろう。


 俺はそういう希望を持っていた。


 しかし、ここのところは休養の期間とし、デートができていなかったので、その計画は少しずつ遅れてしまっているように思っていた。


 このままでは夏休みに入って一週間以内に、二人だけの世界に入っていくところか、このキスをすることすら難しい情勢だ。


 夏休みの後半にずれ込むどころか、夏休み中にその目標を達成するのは難しくなってくるかもしれない。


 俺は喜緒乃ちゃんに会うことができることになったので、この遅れを挽回したい!


 この一か月以上の間、喜緒乃ちゃんとデートできなかったので、いっそのこと今日、このキスまで進んでもいいのでは?


 いや、さすがにそれは飛躍しすぎだろう。


 とにかく喜緒乃ちゃんと一緒に楽しい時間を過ごすことが大切だ。


 俺はそういう気持ちで喜緒乃ちゃんとの待ち合わせ場所に向かっていたのだった。




(あとがき)


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