第7話「てぇてぇパワー」ってなんですか?

―――――視界が戻ると、私達三人は、例のあの部屋に戻ってきていた。


「ふぅ。ただいま、っと」

「わ!?……す、すごい!!瞬間移動だ!…………って、あり?これが異世界?なんか思ってたのと違うんだけど……」

「違うよ、空音。ここは…………」


…………あれ。

そういえば、結局ここって何のための部屋なんだっけ?忘れた。というかそもそも聞いてない気もする。


「??うん。ここは…………なんなの、琴葉」

「……えっとぉ……」

「ここは、我々女神の休憩所みたいなものさ。私達だってずっと働き続けるってわけにはいかないからね。適度な休憩も必要なのさ」

「あ~……。そうだったんですね」

「いや琴葉も分かってなかったんじゃん……」


目を細めながら覗き込んでくる空音に、私はわざとらしく顔を背ける。

―――――と。


「ユーリ様の場合は、適度どころじゃないくらい休んでますけどね」


後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。。


「やあメナちゃん、ただいま」

「お帰りなさい。……まったく。現世に降臨して、しかも人間に憑依するだなんて。いくらなんでも無茶苦茶すぎます」

「ははは、ごめんごめん。でもああするしか方法はなかったのだから仕方ないじゃないか。特に問題も起きなかったわけだしさ」

「……はぁ。それはそうですが……」


メナちゃんが呆れかえったように大きなため息を吐く。

……この人ユーリさんの下で働くのって滅茶苦茶大変だろうなあ……。


「ねえ琴葉。この子ってだれ?」

「え。ちょ、ちょっと空音。『この子』呼ばわりはダメだよ。こちらはメナ・トートイアさん。ユーリさんのお仕え役で、次期女神様なんだから」

「えっそうだったの!?ご、ごめんなさい……!」

「あはは、いいんですよ空音さん。実際、私はまだ子供ですからね」


そう言って、メナちゃんは優しく可愛らしい笑顔を見せる。

その姿は、紛れもない女神……というより天使のようだった。


「それより、うまくいったみたいで良かったです。にしても琴葉さん、魂だけの状態で一体どうやって空音さんと話せたんですか?」

「えっ!?そ、それは……その……わ、私にもよく分かんなくて。ははは……」


……あのことは、流石に誰にも教えられない。墓場まで持っていく。

というか、なんであれでいけたのかは私にも分からない。


「そうですか……。ユーリ様が手助けしたという訳ではないのですか?」

「いいや。私がやったのは、ここへ連れてくることだけさ。私が見た時には既に、二人で話の話し合いは済んでいたようだったしね」

「不思議ですね……奇跡が起きたんでしょうか……」

「フフ。私には分かるよ。きっと届いたのさ。空音君に、琴葉君のラブパワーがね」

「!?ちょ、何言ってるんですか!?」


この女神……!!空音の前ではこういうこと言わないって約束したのに……!!


「らぶぱわー……?それってなんですか?」

「そ、空音!今のは、えっと……」

「ああ!思い出した!」

「……え、な、何を……?」

「私が琴葉に気付いた時ね。琴葉さ、私に後ろから抱き着いて、『好き!大好き!』って言ってたよね?あれがラブパワーってこと?」

「っ!??な……!?」


あれ聞こえてたんかい……!

いや、そりゃそうか。逆に聞こえてない訳ないよなチクショウ……!

ちょっと待って。無理。死ぬ。


「そ、空音君!!その話、もっと詳しく……!!」


ああもうほら、この人が反応しちゃったよ。

この人、私達の間には介入しないっていう約束とっくに忘れてない?


「う~ん……。詳しく、って言われてもあんまり覚えてないんですよねえ……」

「そうか……では琴葉君。その、空音君と話せるようになった時の状況について教えてくれないか」

「え」


……え、何言ってんのこの人。

あれの説明なんて、そんなん愛の告白みたいになっちゃうじゃん。そんなん無理に決まってるじゃん。


「さぁ……さぁ!!」

ユーリさんが興奮した目で迫ってくる。

いや、無理ですって。

ちょ、誰か……。誰か助けて……。


「あの、ユーリ様。そろそろ異世界転生の準備をしてください」

「え?し、しかし……」

「お仕事。溜まってますよね?このままだと今月分のノルマが達成できませんよ。もし達成できなかったら、ユーリ様のラノベコレクション捨てちゃいますからね」

「う……!そ、それは困る。わ、分かったよメナちゃん……今は諦めよう。これからチャンスは山ほどあるしね」

「……はぁ。では、さっさと書類手続きしてきてください」


メナちゃんの強い説得に、ユーリさんはトボトボと部屋の奥の事務机の方に歩いて行った。


…………救いの天使が現れた。

ありがとうメナちゃん、君のことは忘れない。


っていうか、最後のユーリさんの言葉。

もしかして、今無理やり私達をくっつけようとしてたってこと?そんでこれからもまだ何かやろう企んでるってこと?……こわ。


「メナさん、ありがとうございます。助かりました……」

私は、空音に聞こえないようにそっと耳打ちする。


「いえ。……気を付けてくださいね。ユーリ様は、自分の趣味のことになると暴走しがちですから」

「は、はい。メナさんが、ユーリさんはあんまり信用しちゃダメって言ってた理由が分かりました……」


―――――それから数分後。


「……よし、と……!できた!みんな、できたぞ!!」

ユーリさんが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「おおー!!……って、『できた』??何か作ってたんですか?」

「ああ。琴葉君、約束しただろう?異世界へ行く際には、特典として強力な力を授けてあげると」

「あ……。た、確かにそう言ってましたけど……。い、今ユーリさんが、直々に作ってたってことですか?」

「ああ。心をこめて、君達にとって最適なものに仕上げたよ」

「わぁ……!ありがとうございます!やったね琴葉!」

「う、うん……」

なんか、嫌な予感がするっちゃするけど……。


「ユーリ様、確認ですが。手続きの方もきちんとなさったんですよね?」

「ああ、安心したまえ。きっちりと、爆速で終わらせてやったさ」

「……でしたらよろしいのですが……」

「あの、ユーリさんっ!その特典ってどんなやつなんですか?」

空音が、もう待ちきれないといったような声で言う。


「ふむ。では、早速お披露目といこうか。琴葉君空音君、手を出したまえ」

「はーい!」

「は、はい……」

空音は意気揚々と、私は恐る恐るユーリさんに手を差し出す。


「では授けよう!その名も…………『てぇてぇパワー』!!!」


…………へ??












































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