第8話 炸裂、てぇてぇパワー

「「「てぇてぇパワー……???」」」


私……そして空音とメナちゃんも、三人揃って首をかしげる。


異世界転生する時に女神様から貰う能力って、即死チートとか、時間操作とか、そういう分かりやすくめっちゃ強い能力だと思うんだけど。

「てぇてぇパワー」ってなんか弱そうだし。聞いたこともないし。そもそも意味分かんないし。

……この女神様のことだから、もしかしてまたヘンなこと企んで―――――


「ではいくよ。―――はっ!!!!!」


「え……―――っ!??」

「わっ!??」


ユーリさんは、戸惑う私達の様子を気にも留めず、手のひらの上の光の玉を放った。

するとその光球は、吸い込まれるように私達二人に向かって飛んでくると、そのまま私達の体にぶつかり、消滅した。


「よおし。うまくいったね」

「……び、びっくりしたあ……」

「ユ、ユーリさん!?い、今のって……!?」

「フフッ、怯える必要はないよ。ただ君達に与えただけさ。私が丹精込めて作った力の結晶をね」

「……力の、結晶……」


ということは、もう既に私の体には能力が備わっているということなんだろうか。

でも、特に何か変わったような感じは…………


「ねえ琴葉」

「え?」

「―――せいっ」

「痛っっ!??」


隣から呼ばれ、振り向いた瞬間に空音がデコピンをお見舞いしてくる。


「ちょ……!?い、いきなり何すんの!」

「う~ん……。ねえユーリさん、そのなんちゃらパワーっていうの、ほんとにあるんですか?何も起こってないような気がするんですけど……」

「え、今私の体で試したの???むしろ何か起こってたら私死んでるんだけど。自主規制レベルのグロシーンになるところだったんだけど」

「ハハハハ。空音君、安心したまえ。君達はきちんと手にしているよ。私の生み出したチート能力……『てぇてぇパワー』をね」

「チート能力、ですか……。存在は知っていましたが、実際に授ける瞬間は初めて見ました。それに、そんな名前の能力は聞いたこともないのですが……」

「あっ、私も私も!!そもそも、『てぇてぇ』ってどういう意味なんですか?」

「あれ……君達は知らないのかい?琴葉君も??」

「いや、私も聞いたことないです……」


なんかすごーーーく嫌な予感がするんだけど…………。


「なんと。誰一人知らないとは……全く勉強が足りないねえ。特に琴葉君は、知っていてもおかしくないというか、知っていて当然くらいに思っていたのだが」

「…………ちょっっっと待ってください。それって、その……ここで言って大丈夫なやつですか?」

「??琴葉、それってどういう意味?」

「いや、ほら……ね?その……」


空音がいる前で言って大丈夫なものなのか、という意図を伝えるため、私は空音の顔とユーリさんの顔を交互に見ながらアイコンタクトをする。


「……あ。ユーリ様……」

「ん?」


メナちゃんは私の意図を察してくれたのか、ハッとした表情になってからユーリさんに耳打ちしてくれる。

……流石すぎる。もうこのお方が女神様でいいんじゃないか。


「ねえ琴葉、私だけのけ者みたいで嫌なんですけど~……」

空音がふくれっ面で言ってくる。


「ご、ごめん空音。でもこれは別にそういうわけじゃ……」

「じゃあどういうわけなのさ?」

「それは……その…………」

「ふむふむ……なるほど。琴葉君、安心したまえ!」


私が言いよどんでいるところに、メナちゃんから私の心配事について説明されたであろうユーリさんが言ってくる。


「約束しただろう?君達の仲にいたずらに介入することはしないと」

「…………。分かりました。教えてください」


その約束はついさっき破られかけたんですが……と言いたいところだが、グッとこらえて言葉を飲み込む。

今はユーリさんを信じて聞くしかない。自分の能力を知らないまま異世界に行くのは流石に怖い。


「よおし。では教えてしんぜよう。『てぇてぇ』とは、『尊い』という意味を持つインターネットスラングでね。自分が尊いと感じたものに対して使われる言葉なのさ。『〇〇がてぇてぇ……』みたいな風にね」

「は、はぁ……」

「その、『インターネットスラング』というのはよく分かりませんが。『尊い』という意味なのであれば、『てぇてぇパワー』というのは、尊ぶべきほど偉大な力である、という意味の名前なのでしょうか?」

「う~ん……。まあある意味ではそうなのかもしれないが。私がこの言葉を知ったのは、百合ラノベの感想をネット上の同志達と語り合っていた時なんだがね」

「えっ??ユ、ユーリ様?この部屋から人間界にいる人たちと繋がっていたということですか??」

「ああ。ネットを繋げばいけたよ」

「……そ、そうなんですね……」


メナちゃんがドン引きしたような顔でユーリさんを見つめる。

…………ていうか、なんか不穏なワードが聞こえた聞こえた気がするんだけど。気のせい?


「それで、そのコミュニティにはこのように使われていたのだよ。『〇〇たんと○○たんの百合展開てぇてぇ』……とね」

「ゆりてんかい??」

「つまり、二人の少女が互いに愛し合っているのを思わせるような描写がとても素晴らしい、ということさ」


………………言っちゃったよ。

はい、やった。この女神様、予想通りしっかりやらかしました。


ドン引きする私とメナちゃん。そして、キョトンと不思議そうにする空音。

そんな私達を、ユーリ(さん)が一人だけ楽しそうに笑いながら続ける。


「そしてだね。『てぇてぇパワー』は、そんな『てぇてぇ』という感情をエネルギーに変える能力。簡単に言えば、琴葉君と空音君が百合百合しているところを私が見て、私が『てぇてぇ』と感じれば、君達の力が飛躍的に向上するというわけさ」


あ、もうその意図を隠そうとすらしなくなったんですね。

やばすぎ。いくら空音でも流石にここまではっきり言われたら…………


「う~ん。よく分かんないけど、琴葉と一緒に仲良く戦えばいいってこと?」


…………大丈夫だった。よかった。


「ま、まあそんな感じ……なんじゃない?知らないけど」

「だったら簡単だよ!私達、もうとっくに仲良しだもん。ね、琴葉!」


言いながら、空音が私の腕に組み付いてくる。


「ちょ……!いきなりなに……!?」

「だって、仲良くしなきゃいけないんでしょ?」

「いや、それは……そうかもだけど……」

「~~~っ……!『てぇてぇ』……!!」

「っ!?!?痛たたたたたたた!!!!!」


突然、私の腕を抱いている空音の力が急激に強くなり、私の腕に激痛が走る。


「え!?ごめん琴葉、そんな強くしてるつもりはなかったんだけど……」

「いったた……。腕引きちぎれるかと思ったよ」

「……ふふ……さっそく発動したようだね。今のが『てぇてぇパワー』の力さ。琴葉君の体の強度も上がっていたから、空音君からしたらあまり変わったようには思えなかったかもしれないがね。普通の人間相手なら、本当に腕が引きちぎれていたくらいの力だろう」


え、こわ…………。発動するのが二人同時でよかった。


「へえ……。ねえ琴葉、もっかい……」

「やんないよ。ぜっっったいやんないからね」

「ハハハハ。物足りないのなら、異世界に行ってから存分に試すといいさ。それにしても、生で見る百合……流石の破壊力だ。やはりこの能力にして良かった……」

「…………あの、ユーリ様。ちょっとよろしいでしょうか。この能力だと、お二人をずっと観察している必要があるんじゃないですか?」

「うん?そうだが……何か問題があるかな?」

「いや問題しかないですよ!!今まで以上に仕事サボるつもりじゃないですか!」

「仕事?私達はこれから琴葉君達のガイド役として一緒に異世界転生するのだから、むしろ仕事しまくりじゃないか」

「…………え?」

「ん?知らなかったのかい?異世界に死者を送る時は、女神とその付き人も一緒について行かなければならないんだよ。転生者をサポートするためにね」


「―――――えええええ!!????」


ユーリさんの衝撃的な言葉に、メナちゃんはこれまでで最大の大声を上げた。















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