第5話

その名を聞いて、辺りがまた騒ぎ出す。



新撰組。



それは、半年ほど前に会津藩直々に命名された、京の治安維持部隊。



昨年の八月十八日の政変の働きにより、その名は徐々に知れ渡りつつあった。



その上、剣術の手練れも多く召し抱えているのだから、京の侍の間では知らぬ者はいない程。



そんな威圧的な名に、中年男は怯んだように身を縮め、もう一人ははっと顔を上げた。



その様子を眺めていた沖田は一つ頷くと、小柄な男に目を向ける。



「それでは、あなたも来てくださいね。」



「は?」



あ、これ三回目だな。



という囁かな突っ込みを自ら入れつつ、男は大きく目を見開く。



その黒い瞳は、動揺を隠せずに微かに揺れていた。



「な、なんで…」



「なんでって言われても…あなたも騒ぎの一員みたいですし、ねぇ?」



いいでしょう?と、有無を言わさずに沖田は男の腕を掴んだ。



思った以上に強い力に思わず怯む。



「…ちょ、離せ!」



じたばたと暴れていると、何か見つけたような黒い笑顔の沖田が目に入った。

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