疑い

第2話

元治元年・京



ある日、



「ってえな、何処見て歩いてんだ!?」



一人の男に、不機嫌そうな罵倒が浴びせられた。


男が肩のぶつかった相手から絡まれたのである。



相手は背の高い中年の男、刀を差しているため侍のようだ。



「…すまない。」



一方、こちらは小柄な男。



帯刀しており、左頬にある大きな傷跡が威圧感を増す。



が、どうしても縮まらない身長差のおかげで、その光景は中年男がガキを脅しているようにしか見えない。



「あ?聞こえねえんだよ!」



相当短気か、はたまた機嫌が悪いのか。



中年男は更に突っかかる。



その刺々しい雰囲気に、辺りがざわざわと騒ぎ出した。



火事と喧嘩は江戸の花とは言うけれど、それは京とて変わらない。



喧嘩を期待する好奇の目、迷惑そうに眉を細める目。



あっという間に、二人を中心に輪ができた。



「慰謝料なら払おう。」



「あぁ!?ガキのくせに、調子乗ってんじゃねえ!」



「あのー…」

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