《記憶》死の11日間
第12話
その日は朝から忙しない空気が漂っていた。
3年前。
幻歴1236年5月。
花の国に宣戦布告を突き付けられた鏡の国は、開戦前日のその日、いよいよだという高揚感と異様な緊張感に包まれていた。
中でも最もピリピリとしていたのは、王都にある軍事基地であるこの施設。
「とはいえ、僕は非戦闘要員だからねぇ。」
ズズッと珈琲をすすりながら、ユリウスはぼんやりと窓の外を見下ろした。
軍のトップが全体に向かって挨拶をしている様子が見える。
大方、国民の戦意高揚のためのパフォーマンスだ。
「ノアは、珈琲を入れるのも上手くなったねぇ。」
「博士が教えてくれましたから。」
「うんうん、良い事だ。」
素直に褒めると、ノアは嬉しそうに頬を染めた。
元々薄い桃色を湛えた彼女の髪が、さらに色を増すようにも見えた。
(こうしていると、本当の人間のようだ。)
ユリウスは薄く笑った。
ノアは、ユリウスが成功させたはじめての
彼女の皮膚や瞳といった表面上は人間と同じだが、その中身はほぼ金属で出来ている。
彼女はものを食べることができない。
味覚すら与えてやれなかったことを後悔しているものの、こうして美味しい珈琲を入れられるようになった。
技術が発展しさえすれば、彼女が「美味しい」という感覚を自らで味わうことができるようになるのかもしれない。
(研究者の腕の見せ所だなぁ…。)
ズズッと、珈琲をすする。
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