第11話

ゾーイはもう一度敬礼で挨拶し、その場を足早に去った。



「取り込み中だったか、悪いな。」



「構わん。」



遠くから声をかけて来たのは、ダシャ大佐。



キムの同僚で、白髪ともっさりとした髭が目を引く軍人である。



彼の指揮する銃撃隊は非常に優秀で、最先端で戦うキムの部隊の補佐によく入る。



二部隊で作戦をこなす事も多かった。



「よく見ているな、彼女のこと。いい上司・・・・だ。」



キムは眉一つ動かさない。



それを眺めて、少し間を置いてからダシャは小脇に抱えていた書類を手渡す。



「次の作戦だ、目を通しておいてくれ。」



「ああ。」



「それから、お前もよく休め。隈、酷いぞ。」



「戦いが近い、ここで腑抜けてられるか。」



「そんな所が気に入られてるんだろうが…程々にやれよ。」



ダシャは困ったように笑って、キムの肩を軽く叩く。



それ以上は、何も言わなかった。



ふと、キムは廊下の窓から差し込む淡い光に目を止める。



その光源に導かれるように顔を上げるキムの髪が、月明かりを受けて黒く優しく光った。



風に揺れる髪の奥、彼の右目には縦に大きな傷がある。



(…。)



「どうした。」



「いいや、なんでもない。」



ダシャは頭を振った。


その答えにキムは不思議そうに首を傾げたが、何事もなかったかのようにその場を離れる。



「俺は部屋に戻る。じゃあな。」



「ああ、また明日。」

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