第10話

***


「ドラクロワ准尉。」



突然声をかけられ、ゾーイは少し反応が遅れて足元をふらつかせた。



が、どうにか姿勢を立てて右手を額の前でしっかりと伸ばす。



「大佐、お疲れ様です。」



「いい、休め。」



「は。」



キム・ホワードが手をあげるのを確認して、ゾーイは敬礼を直す。



「…。」



「…。」



「…?」



何も言わずに、じっと顔を眺めてくるキムをゾーイは不思議に思った。



「あの「今日の訓練だが。」



彼はひとつも表情を変えることなく、彼女の目をただまっすぐ見つめた。



「いつもより少し踏み込みが浅かった。しっかりと重心を落としてから技を繰り出せ。バランスを崩せば命取りだ。」



「ありがとうございます。」



「地上戦が近い。お前たちの力に期待している。」



「は。」



ゾーイは極力無表情に務めた。



目の前のこの男のことが、彼女は少々苦手だ。



褐色の肌に黒い髪、リンと同じ蜂蜜色の瞳。



どれをとっても美しい造形をしているというのに、全てが揃うと何故だか無機質さを感じる。



だというのに、このキム・ホワードという男は部下をよく観察する、良い軍人なのである。



「今日は休め、明日も励むように。」



「は、失礼致します。」



そんな労いの言葉にも、ぴしりと敬礼をして、ゾーイは踵を返した。

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