第5話

「もっと耐久性のあるものを使った方が良いかな…。」



「それがあるなら頼みたいです。」



「ないから困ってるんだよー。」



よいしょ、とひとつ声をこぼして、博士は右手の指を動かすように指示する。



キュ、キュ、と金属同士がぶつかる音がして人差し指が動く。



うーん、駄目だ。博士は首を捻っては、さらに右手の内部を弄る。



「君はねえ、もう少しこれに優しい戦い方をした方が良いよ。」



「戦う最中にそんなこと考えてられません。」



「とは言っても、これ以上強く締めてしまうと、元ある体の方に影響が出る。人間の体は万能じゃないよ、分かってるでしょ?」



「…。」



ゾーイの右腕のこれが接続されているのは、まだ生身が残る胴体だ。



右手を無理に動かせば動かすほど、胴への影響や負担が大きい。



「生身が腐り始めたら、君は今度こそ死ななきゃいけなくなる。それは駄目だよ。」



「でも、」


「だーめ。僕の信用が落ちるでしょ?」


「…。」



よし、できた。博士のその言葉を聞いて、ゾーイは右の人差し指を動かす。



音はしない。



以前よりも滑らかに動く。



「うん、良さそうだね。他に気になるところは?」



「いえ。」



「中の方も?」



「はい。」



「それならOK。でも、定期的に見せにくるんだよ。」



緩く結んだ金髪を撫でて、博士は笑う。

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