第4話

軍事基地の塔の最上階は普段人の出入りが少ない。



ゾーイが階段を登るにつれ、すれ違う人の数は徐々に減り、つく頃には彼女の足音だけが高い天井に響いていた。



「博士。」



その階の一番奥。



少し歪んでしまっている扉を開けると、ギリギリと嫌な音がした。



この扉は、いつだったか此処に暮らす博士が研究中に爆発を起こしてしまってからこんな風に歪んだままらしい。



声を掛けても、奥まった机に齧り付いている彼の耳には届いていない。



「博士。」



もう一度呼べば、ようやく音として彼の耳に入ったのだろう、博士は声の主を探してキョロキョロと辺りを見渡す。



「あ、ゾーイか。何か用かい。」



「右腕の調子が悪いのです。」



「ありゃりゃ、この前調子を合わせたばかりだったのになぁ。こっちへおいで。」



黙ったまま頷いいてから、ゾーイはいつものように彼の前の机に右手を放り出す。



カシャン、と機械の音が僅かにする。



軍服の袖をまくれば、普通の人間と変わらない、いや、どちらかと言えば色白で柔らかな素肌の右腕があらわになる。



博士、と呼ばれた若い男は慎重にその腕をひっくり返して、そこにある窪みを押した。



再びカシャン、と音がして右腕の一部が四角く切り取られ、蓋のように開く。



「あー、また無茶したんだね。良くないよ。」



「軍人ですので。」



「とは言え、これは…もおおぉ。」



右腕の中に現れた細かな機械たちをガチャガチャと弄りながら、博士はため息をついた。

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