第5話 マゾとサド、どっち?




 【シオリ視点】





「……ふふ……」


 私はまた、とある『鍵』を見つめて、笑ってしまう。

 私が借りている『仕事部屋』の鍵で、見慣れたものではある。

 

 でも、これはもう、ただの『鍵』ではない。

 合鍵をフミトに渡してから、鍵が持つ意味合いも、変わった。

 そう、『合鍵』!

 私一人だけが使うのではなく、フミトと共有する……。

 つまり、ほぼ、『同棲』!

 これはすごい……。

 

 もはや仕事部屋というより……フミトとの……愛の巣!

 

 私は、胸を高鳴らせながら、ドアを開ける。


 そして、部屋の中で、私を待ち受けていたものは……、 


 

 フミトが、立ったまま、

 女性の腰を背後から掴んで、

 自分の下半身を打ち付けていた。

 

 体位でいうと、立ちバック、というやつかな?

 

 うん……?

 うーん…………?????


「……誰、その女……?」


 同棲一日目で浮気?

 クズ男RTAやってる……?

 


「違うんだこれは!!!!!!!!!!」



 フミトが叫んだ。


 

 □



【フミト視点】





 思わず、俺は「違うんだこれは!!!!!!!!!!」と、叫んだ。

 

 どさっ、と音が響く。

 シオリは持っていたバッグを、床に落とした。

 落とした、というか、呆然として、手放したというか。


 そして、突然、踵を返すと、

 何かを手に持って戻ってきた。


 包丁であった。



「嘘だろ……!?」



 判断が、早い!


 刺されるのか!?


 シオリは迷わず突っ込んできて、俺の腹を刺した。


「なぁーんて……、うっそー……」


 暗く冷たい声で言うシオリ。


 ぐにゃん、と包丁が曲がる。

 包丁は、クッションでできたおもちゃだった。


「び、ビビッたぁ~~~~……っ!!!!」


「いや……、ビビったのはこっちなんだけど……」


「…………アマノ先生、お、お帰りなさい!」


 そこで、女性がシオリの方を向いた。

 そこでシオリも気づいたようだ。


「……あれ、河原かわはらさん。来てたんですか?」


 彼女は、河原かわはら彩香あやか


 シオリの担当編集……、らしい。

 そして、俺の幼馴染でもある。


 □



「……え、えーと……、初めまして……ではないんだよね」


 河原かわはら彩香あやか

 23歳。

 

 ややこしいのだが、俺の知り合いでも、シオリの知り合いでもある。


 俺にとっては、年上の幼なじみ。

 近所のお姉さんだ。

 

 で、シオリの担当編集。

 彼女は、出版社に勤めている社会人だ。


 だが、俺はアヤねえ(と、俺は呼んでいる)がシオリの担当なことを知らなかった。


 だから、困惑した。

 シオリの仕事部屋にいったら、なぜかアヤねえがいるのだから。

 

 逆に、シオリも困惑するだろう。

 俺とアヤねえが知り合いだということは知らなかったのだから。


 すごい偶然があったものだ。


「…………で、なにしてたの?」

「いや、これは……」


「わ、わたっ、わたしから、説明します……っ」


 アヤねえが、へにゃっと指が曲がった手を上げていた。

 前髪が長くて、少しボサボサの黒髪。目の下には濃いめの隈が。

 全体的に肉付きが良い……というか、ムチムチの体。

 フリル多めの可愛らしい黒のワンピース。

 本当に失礼だが、ソシャゲの一部の層に人気なキャラでいるよな……となる。

 シオリの整ったスタイルとは大きく異なるが、……まあ、えっちは、えっちだ。


「……そ、その、わたしが担当している作品で、すごくえっちなものがありまして……。ただ、わたし、すごく処女で……えっちエアプなので、少しでも経験が欲しくて……だから……すみませんでした、アマノ先生……」


 アマノ先生、というのはシオリの作家としてのペンネームだ。


「ど、どうして、河原さんが謝るんですか?」

「え……、だって、アマノ先生と、フミくんは……」


 フミくん、とアヤねえは俺をそう呼んでいる。

 そこで俺は察した。


「…………、あれ、お付き合い、してるんじゃ……?」

「あー……」


 アヤねえ、勘違いしてるのか。

 無理もない。そりゃ、部屋に入れてるくらいだし、そう思っても……。


「――――河原さん、少し相談が」


 シオリがいきなり、アヤねえに耳打ちした。

 なにやら、こそこそ話している。

 なんだ……? どうしたんだ?


 しばらくすると、


「……フミト。ちょっとだけ外で時間を潰してきて」」

 

「……は?」

 

 □



 わけもわからないまま、言われたとおりにする。

 あの二人、なにを話しているのだろう?


 なにやらシオリの様子もおかしかった。

 謎だ……。


 さておき、シオリに言われた通り、時間を潰してから仕事部屋に戻る。


「……あれ、アヤねえは?」

「帰ったわ。忙しいみたいだし」

「……まあ、うん。そうだな……」


 先ほどの痴態ちたい(立ちバック)も、仕事なのだ……。

 ラノベの編集者、過酷すぎる仕事だ……(個人差があると思う)。


「……それで、今日はどうするんだ?」

 

「……フミトって、マゾ?」


「…………は?」


 マゾ?

 マゾヒスト?

 俺がいじめられて喜ぶと……?


「いや……どうだろうな……?」

「じゃあ、サド?」

「わからん」

「マゾなんじゃない? ほら、触手の時に喜んでたし」

「……あれは……、触手とかじゃなくて、普通に……」

「なに?」

「お前に触られたら、そりゃ喜ぶよ」

「…………そ、そっか」


 認めがたいが、それは隠しきれない事実ではあった。

 認めがたいが……。

 

 こいつの質問の狙いも謎だが、しかし気づくことがある。


 ……俺は、どっちなんだ?

 

 これは案外、何かに役立ちそうな予感がする。


 触手の時に、それをスキュラ(タコ娘みたいなやつ)っぽいキャラのアイデアにできそうと感じた時に近い感覚だ。

 ……こいつ、まさか、そうやって何か俺にアイデアを提供する……のが狙いだったりするのか?

 いや……、でも、シオリ自身がエロ描写の参考にしたい、ってことだったか。

 

 最近のラノベのトレンドとして、そういうものが求められてるのはあるだろう。

 過激なエロ描写なんて、かなり昔からあったとは思う。

 例えば、『新妹魔王の契約者(2012年刊行)』……とか?

 だが、恐らくシオリが今やるとするのなら、もう少しあとの文脈……。

 不純系のラブコメなんかをやるつもりなのだろうか?

 『わたし、二番目の彼女でいいから。(2021年刊行)』みたいな感じとか……。


 実際、さっきアヤねえに頼まれていたのもそういうことだ。

 エロいシーンを実演しようということだったのだが、どういうシーンなのか説明される前に、シオリが来てしまった。

 ……おそらく、シオリはアヤねえに詳細を聞いたのだろう。

 …………シオリが代わりにやるということか?


 ……シオリの所属してるレーベルは、エロいラノベしか出さないのだろうか?

 もう終わりだよそんなレーベルは! 


 ……まあ、なんでもいいか別に!

 今の俺には、シオリがなにを書くのかなんて、もう……。

 俺には関係のないことだ。


「ならさ……、フミトがどっちなのか、確かめてみない?」


 そういってシオリが見せてきたのは、SM的な描写のあるエロい漫画だった。


「どうする? どうしたい? フミトは私をいじめたい? 私にいじめられたい?」


「……お前は、どうされたいんだよ……?」


「……なら、コインで決めちゃおっか」


 そう言って、妖艶に微笑みながら、シオリはコインを弾いた。


 

 □


 ――表なら、俺が攻める。

 ――裏ならば、シオリが攻める。


 そう決めて弾かれたコイン。




 そして――――…………。



 スパァン!! と、俺の手のひらが、シオリの尻を叩く音が響いた。


 コインは表――――攻めるのは、俺だ。




「あっ、……んっ♡」


 甘い声が、漏れていた。

 四つん這いになって、尻を突き出しているシオリ。

 シオリの大きなお尻が、ぶるんっ、と小刻みに肉を揺らす。

 赤い手形のついた少し脹れた尻。

 めくれ上がった制服のスカート。

 太股にかかった、脱ぎかけの、薄桃のショーツ。

 

 おっぱいやキス、それらとはまったく違う部分を刺激される。

 

 

 顔を真っ赤にして、涙を滲ませるシオリの顔を強引に引き寄せて、俺は言う。



「…………お前さ……、わざとこうなるように仕向けたんだろ? とんでもない変態マゾ女だな……」 


「……そ、そんなわけ、ないでしょ? 何言ってるの?」


 脱ぎかけの薄桃のショーツに浮かんだ染みが、言葉よりも明瞭に、すべてを証明していた。

 今までよりも、ずっと濡れてる。


 …………こいつ、ドマゾだ。





――――――――――――――――――――――


【あとがき】


 4話が過去回っぽい感じでえっちなシーン少ないの……まずいか!?となる……。

 やはりもっとえっちなシーンを増やしたほうがいいのか……どうでしょう……?























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