第2話 すーり♡ すり♡



「今日は……まず、お互いの、えっちな本を見せ合おうと思うの」


「え……!?」


 思わず、のけぞり、シオリから距離を取ってしまう。


「今さら怖がったって無駄よ、もう遅い」


 こいつ、なんかずっとエロ漫画みたいなこと言ってない?


「……一応聞こう、なぜ?」

「だってお互いの性癖をすり合わせておいたほうが、スムーズでしょう? お互いが興味のない方向に進んでも、意味がない」

「それはそうか……」


 このあたり、エロとか関係なく、合作の基本だ。

 そういえば昔も同じことしたな。

 俺たちは、いろんな作品で、どこが好きか、どこが刺さらないか、そういうすり合わせを、たくさんした。


 なんで今さら、性癖とか教えないといけないんだよ。

 そもそも、もうこいつとしゃべりたくないんだよ。


 でも、少し違う気持ちもある。


 ……楽しかった頃のこと、思い出すの、つらいんだ。

 この気持ちは、バレたくなさすぎる。 


「じゃ、やるか……」

「ええ……」


 性癖の開示。

 既に、おっぱいを揉むという一線を越えていても、恥ずかしいものは恥ずかしい。


 それにあたって、ルールを決めた。

 お互いに、電子書籍のアプリを開き、テキトーにスクロールして、止めたところで1冊選択。それを見せ合う。


 まどろっこしさ抜きの、運任せ。

 なんか見せたらマジでヤバいやつとか入ってたっけ……、さすがにすべてを完璧に記憶しているわけではないので、めちゃくちゃ不安だ。


「運命の、ドロー……か」


 そして、互いに最初のエロ本を出し合った。


 ・俺 → ギャルに誘惑されちゃうやつ

 ・シオリ → 幼なじみの王道イチャラブ


「…………ギャル…………、好きなの……?」

「まあ……、はい……、……好きです」

「変態、ドスケベ、最低、最悪」


 ひどくないか? 

 言い過ぎだろ。


「え、そんな言われる……?」

「たとえば、うちのクラスの姫宮さんとかは? オカズにしたことある?」

「はあ!? ねえよ!」


 姫宮さんは確かに顔の良い金髪のギャルだ。

 だが、誰でもいいわけでもない。

 というか、エロ漫画はエロ漫画、リアルはリアルだろ。


「本当にぃ~……?」

「本当に。あんまり、リアルの知り合いとかは……、想像の世界に招かないといいますか……」

「……私は? 私ではシコる?」

「……は、はあ? なんだよそれ」


 シコるて。

 こいつ、言葉が直接的すぎて怖いんだよ。

 いつの間に、そんなになっちゃったんだ。


「じゃあ、お前は?」


「私は、結構……、あんたで、するけど」


「あアァ……ッッ!!?」


 ど、どういうことだ?

 こいつ……なにを考えてる……?

 シオリはじっとこちらを見つめて、わざとらしく首を傾げている。

 綺麗な黒髪が揺れて、瞳に髪がかかった。

 視線を遮る前髪が、真意を覆う。


 シオリは、こちらへ体を傾けて、耳元へ顔を寄せてくる。


 そして、


「…………別に、あんたでオナニーしても、あんたのこと好きとは限らないでしょ?」


「……はあ……!? な、なん、だよそれ……」

「だから、言ってるでしょ~? あんた、いい体してるし、使ってあげるだけ感謝してよね?」


  俺の手に、白く柔らかい手が重なる。

 手の大きさを対比させるように、手の甲に重ねたあとに、愛おしそうにそっと撫でる。

 その絶妙な力加減に、ぞくぞくさせられる。


「……次! 次いこう。一冊だけじゃ足りないだろ?」

「ふふ。いーよ。あんたの面白いとこ見れたし。次はどんなとこ見せてくれるのかな~?」


 くっ……、なんだこいつ、サキュバス気取りか?

 しかし、まずいな。

 これでまた、俺の引いたエロ漫画だけ変なのだったら、連続でいじられる。


 2巡目。

 お互いに引いたエロ漫画は……、  


 ・俺 → ギャル(2回目)


 ・シオリ → 触手


「おいおいおい、なんですかこれは、シオリさん、ねえ!? 触手!!!?」


「……くっ……!」


「うわ……すごいなこれ。淡い繊細な絵で、女性向け……だよな? それで触手とかあるんだな。グロ……くね? すごい色、ピンクの、うねうねの、モンスターだ……、こういうのが好きなの? 触手に責められたいの?」


「そうだけど?」


 開き直った!?

 しかし、効いているようで、顔は真っ赤で、握った拳は震えている。


「人のこと言えないドスケベさだな……、ファンタジー存在に犯されたいほど欲求不満だったとは。大した性欲だな、ええ、んん?」


「………………、触手……なめてる?」


「え……?」

「あんたが触手のことわかってないからそんなこと言えるんでしょ。わからせてあげる、その体に」

「体に!?」

「はいはい、もうその生娘みたいなリアクションいいから」

「生娘は、……おまえじゃん」

「いいえ、あんたよ。生娘みたいな声を出させてあげる。……ほら、あっち向いて」


 いや俺じゃねえって。

 なんなんだこいつ。


「なんだよ、……ちょ、なにして……!?」


 シオリは、するりと俺の背後に組み付くと、足でこちらの足を押さえつけてくる。


「動かないで。動くとどうなるか……わかるよね?」

「はあ? どうって…………、あッッッ、ああっ!?!!??」


 拘束を解こうとして、少し体を動かしただけで、背中にむにっ……と柔らかい感触が広がる。


 乳を……おっぱいを、銃口のように突きつけられている。


 そんな脅しが?


「……ねぇ……わかった?」  


 甘くとろけるような、粘ついたチョコレートみたいな声で、囁いてくる。

 黙って、頷く。

 こいつ……どういうつもりだ……?

 思考している間もなく、


「…………ふ~……っ」


 耳に、息を吹きかけられた。

 そして、

 ちゅ、と瑞々しい音。


「シオリ……おまえ、なにして……っ」

「ちゅー?」

「いいのかよ……」

「はい、また生娘~! ……私の胸、触っておいて、唇が耳に触れたくらいで、なに?」

「……胸揉むのと……、耳に唇は……、どっちが、ヤバいんだ?」

「しらなーい」


 くちゅ……。湿った音。


「あむっ」


 耳が優しく唇に挟まれる。

 ちゅ……。

 舌が耳をなぞっていく。生ぬるい肌の温もりと、唾液の湿り、柔らかさ。

 柔軟剤か、制汗剤か……、甘い香りもしてくる。


「まだまだ……こんなもんじゃないよ」 


 次は、シオリの白い手が伸びて、俺の胸元……、俺の乳首を、羽で撫でるみたいに柔らかく撫でた。


「んんっ……。ちょ……」

 やべえ。変な声でる、なにこれ。


「声、もっと出していいよ。我慢しないほうが気持ちいいよ♡」

「いや、ちょ……」


 左右の乳首を、もてあそばれる。

 同時に、耳をなめていくのも、左右に交互に快感を振り分けられていく。

 これで、終わらなかった。

 シオリは、右手を俺の下半身へと運ぶ。

 ズボンの上から、膨れ上がった俺のそこを撫でる。


「すーり……♡ すり……♡ うわ、硬い……へえ、大きくない?」


「……え、もう?」

「なに……、もう、しちゃうって?」

「……」

「する?」

「……いや、まずいだろそれは……」

「ふふ……はいはい。今はいいよ……。だって今は、趣旨が違うもんね」


 下腹部を撫でる手。

 左乳首をくるくると指先を回しながらもてあそぶ。

 耳を舐める。

 さらに、背中にぎゅ~……っと、胸の感触が伝わるようにゆっくり押し当ててきた。


「…………どう? いろんなとこ、一気にたくさーん気持ちよくなっちゃうの……。同時に! たくさんなの! これよりももっとすごいのが…………『触手』なの。わかった!?」


「……わ、わかった……わかったから……」


「はい、わからせ完了~」


 この、メスガキが……っ!!!!!!

 なんでわからせられる側なんだ俺が????


「実際……、触手だったらもっとすごいでしょ? まあ、再現しようと思ったら手が足りないけど……、でも想像はできるでしょ?」


「いや、でも……、モンスター的なやつだろ? それに触れられて、怖くね……?」


「……あんた、なんか……その……、女の子みたいなこと言うよね」

「今時そんなこと言われてもな」


 確かに、情けなくはあるが。でも、怖いものは怖い。

 逆にこいつは、なんで怖くないんだ。


「これは、この相手役のイケメンのキャラがいるでしょ。その人から生えてるの。だから、手の延長みたいな? 愛のある触手なの」


「愛のある触手」


 そんなのあるんだ……。

 触手が生えてるイケメンってなに?

 ……だがまあ、理屈はわかるかも……。

 触手を持ってる可愛いヒロインのキャラ……アリかもしれない。

 タコ……? スキュラ的なやつ。


「……面白いな」

「ね!? ほら! 触手の勉強になったし、キャラのアイデアにもなったでしょ! ほら! エロの勉強、参考になるでしょ! ね!?」

「……はいはい、なった、なったよ……」


 本当に嬉しそうなシオリを見て、俺は思わずシオリの頭を撫でてしまった。


「……あ……、」

 しまった。

 つい、付き合っていた時の、クセが……。


「悪い。いや、これは……っ」


 思わず手を引っ込めようとした瞬間、

 ガシィッッ……と両手で、腕を掴まれた。


「もっと撫でろ?」

「…………、いいけど、いまさらそれくらい……」


 乳揉んで、耳舐められて……。

  

 でも、頭を撫でるのが、なんだか一番、居心地が悪かった。

 あー、もうなんだこれ……。

 

 俺は、こいつが、大嫌いなのに。

 こいつはわけがわからないし、

 この状況も意味不明で、

 俺はもう、自分の気持ちも、よくわからない。



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