死ぬほど大嫌いな元カノに、おっぱいを揉めと迫られている

ぴよ堂

第1話 ぬれてるのか? 



 大嫌いな女のおっぱいは、どんな感触だろうか?



 俺は今、大嫌いな女のおっぱいを揉んでいた。


 彼女の名前は、天羽シオリ。高校二年。

 同じ高校のクラスメイト。学園で一番のS級美少女……なんて、クラスの男子に言われていた。

 誰もが憧れる学園のアイドル。


 ……だが、俺にとってはそうではない。

 この女……、天羽シオリは、俺の元カノなのだ。


「はやくしてよ……、今さらビビってる?」


 棘のある声。

 黒い大人っぽい下着。

 精緻せいちな花柄があしらわれた、妖艶ようえんなデザインのブラ。

 

 豊満ほうまん……、

 ああいや、豊満というか……、

 デッッッッッッッッ……!!!!!

 デカ!!!!!!!!!! となる、

 たわわな、おっぱいが、俺の目の前で、圧倒的な存在感出していた。


 元カノが、俺の部屋で、下着姿になっている。


 これで何かないという方が、変なのかもしれない。


「ビビってねえよ……」


 声が上擦ったかもしれない。


 とにかく、これ以上ナメられてはいられない。


 指先が、胸に沈み込む。

 やわらかい。すべすべだ。

 吸いついてくるような滑らかな肌と肌の感触。

 明確に、自分とは違う生き物だと思い知らされる、女の肉。

 

 ――理性がトぶ。

 壊れそうになるのを、耐える。


「どう?」

「べ、べつに……?」

「強がってんの?」


「……お前の体なんか、なんでもねえよ」

 嘘だった。

 嘘なのだが、それでも、強がりの嘘をつかないといけない。


 だって俺は、こいつが大嫌いだから。

 だから別れたんだ。

 大嫌いな女でも、おっぱいの感触は、理性を溶かす。


 ああ、どうしてこんなことになっているのだろう――――……。

 


 □


 俺はシオリが嫌いだ。

 大嫌いだ。


 その理由は、あまりにも情けない。


 実は……、シオリは高校生にして、プロのラノベ作家なのだ。


 そして、俺はただの作家志望。ワナビ。


 プロと、アマチュア。

 シオリの年齢の除けば、よくある話だろう。

 ただの、嫉妬だ。


 なんてことはない。

 俺はただ、自分よりも先に、俺が欲しいものを持っているアイツが許せないだけなのだ。

 醜くて、ダサすぎる嫉妬。


 そりゃ、出会ったばかりの頃は、こんなじゃなかった。

 最初は、楽しくて仕方なかった。

 読書の趣味が合う。

 それだけで、無限に話したいことができる。


 俺たちは、これまでの自分の人生を、少しずつ切り分けて切り分けて、お互いに与え合うように、ひたすら話していた。


 所詮は、『付き合いたてが一番楽しい』程度の、よくある話なのだろう。


 ――あいつのことが大嫌いだ。

 あいつは、遠くへいってしまった。

 変わってしまった。

 それは、俺もあいつも、同じことだけど。

 

 ――あいつのことが、大嫌いだ。

 だって、醜くてダサい自分を、突きつけられる。

 だからもう関わらない。

 そう誓っているのに……、


 スマホに通知が。


 シオリ:放課後、会える?

  

 突然だった。

 久しぶりに、あいつから連絡がきた。


 □


 放課後。


 駅ナカの本屋で待ち合わせることになった。

 一緒に下校なんて、できない。

 付き合ってることは隠していたし、バレたら一大事だ。

 だから誰も、まさか俺が学園一の美少女様と付き合ってただなんて、想像もしないだろう。


 ……きた。

 シオリは、きょろきょろと周りを警戒しながら寄ってくる。


「そんなに俺といるとこ見られたら、ヤバい?」


 シオリはこちらを睨みつけると、いきなりスネを蹴ってきた。


「いってぇ……。信じられねえ。もう流行らないぞ、暴力ヒロインとか」

「……うるさい。早く行きましょ」

「はあ……? 行くってどこに?」 


「――あんたの家」


 □


 そういうわけで、俺の部屋であった。


 前にもシオリを入れたことはあるが、久しぶりだと緊張するな。

 シオリを家の前で少し待たせて、慌てて掃除した部屋は、見られたらマズいもの……たとえば、エロいラノベとかは隠してある。

 シオリは、最近はあまり使っていなかったクッションが隅っこにあるのを引っ張り出して、ベッドの前に座る。

 

 ……そういえば、いつもそこが定位置だった。


「……コーラでいいよな?」

「……うん」


 意外と、普通に話せる。

 現実感がなさすぎるから、もう自棄やけかもしれない。

 だって、もう、シオリと話すことなんてないと思っていたから。


「……で? なんの用だ?」


 自分の声ながら、困惑が滲んでいた。

 一体、なにがあれば今さらまた俺と話す気になるのだろう。


「……取材に、協力して欲しいの」

「取材……っていうと、小説のだよな? 俺にできることなんかあるか?」


 シオリは、作家として、俺よりもずっと先に進んでいる。

 今さら、俺なんかができることがあるとは思えない。


「……あるわよ。あんたにしかできないことが」

「俺にしか? なんだよ?」


「………………っち、な……こと……」


 シオリの声が、急に小さくなった。


「なんだって?」


 シオリは、目をそらして。

 膝を抱え込んで。

 手が震えて。

 頬が赤くなってる。



「……えっちなこと!! あんたにしかできないことなんて決まってるでしょ!?」



「……決まってるか!?」


 なんで俺がそんなこと……?


「エロ描写……の参考、的なことか? 自分で調べたらいいだろ」

「そんなのダメ。ちゃんと体験した方が、いいのが書ける」

「体験って……。俺は……いやなんだが」

「は? なんで?」


 たしかに、学園一の美少女……と、世間的には評価されてる女と、えっちなことができたら、それは、一般的には、嬉しいのだろう。


 ――だが、俺は違う。


 だって、こいつが嫌いだから。

 こいつに触るなんて、いやだ。


「なんか……そういうことをしたら、変わっちゃいそうだろ。何が、とか、わからないけど……何かが。俺は、変わりたくない」

「ダッサ……!!!」

「うるせえ」


 本当にムカつく。

 こいつにはわからないだろうよ。

 すぐに成功できるお前に、俺のこだわりが、わかってたまるかよ。


「……私に変えられるの、怖いんだ? 私のことまだ好きだから、私とえっちしたら、私のことしか考えられなくなって、それで、変わっちゃうんでしょ?」

「は? 天地がひっくり返りまくってトリプルアクセルしても変わんねえよ」

「なら、する?」

「……おまえこそ、いいのかよ」

「いいよ。小説のためだもん。これはね、あんたとえっちするんじゃないの。小説とえっちするの」

「そうかよ……」


 『小説とえっち』ときた。

 はあ……、かっこいいですね〜。

 大層な屁理屈だ。

 こいつの考えてることは、昔からわからない。

 しかし、こいつの言葉には何か、形容しがたい真実味を感じる。

 言ってることはバカっぽいのに、なんか、マジだ。


「……わかった。小説のため、っていうなら、協力する。なにをしたらいい?」


 □


 そういうわけで、俺は、大嫌いな女のおっぱいを揉んでいる。


 おっぱいは、気持ちいい。

 柔らかい。

 いつまでも、触っていられる。


 付き合っていた時は、そこまでいかなかった。


 たまにシオリがテンションが上がって抱き寄ってきた時なんかに、その確かな質感を感じてしまい、それだけで、緊張していたし、たっていた。


 ……というか、胸がかすったり、手を繋いだりしてるだけで、普通にたっていた。

 バキバキであった。

 バレると恥ずかしいから、隠そうとはしていたけど。


 どう動かしていいかもわからないまま、シオリの胸を貪っていると、しばらくして……。

 先端の部分が、硬く、なってきたような……。


「……感じてる?」


 マシュマロから、グミのような手触りへ変化したそれをつまみながら、聞いた。


「…………んっ……、もっと……」


 ベッドに倒れ込んで、乱れた黒髪の隙間から除くシオリの瞳は、綺麗だった。


 現実味がない。

 しおらしい、弱々しいこいつは、可愛くて、綺麗で……。


 でも……、何か、認めがたい。

 こんな雰囲気に流されて、こいつを綺麗だと思いたくない。


 作業……。これは作業……。

 そう思いこもうとしても、興奮は押さえきれない。


 抱きしめたいとか、キスしたいとか。


 なにか、そういう、余計な欲みたいなものを、封じ込める。


 下腹部の膨らみが、痛い。

 ……興奮なんて、したくない。


 普通に、人生で一番興奮してるな。


「…………ねえ、次……」

「……次?」


「……」

 シオリが俺の腕を取って、自分のお腹にくっつける。


 お腹から、じりじりと手が下がっていって。


 やがて……、スカートの中の、太股の付け根まで持っていかれた。


 ここまでくると、要求もわかってくる。


 俺は意を決して、先に進む。

 作業。作業だ……。


 そこは、驚くほど熱かった。


 ブラに合わせた大人っぽい黒のショーツ。

 その上からでも、ハッキリと熱が伝わってくる。

 少しずらして、その奥を、直接指でなぞる。


 熱、温もり……、そして……、指に絡みつく、ぬるりとした感触。


「……濡れてるのか?」


 100%エロ漫画の知識で、そう聞いた。


 …………ぷいっ、と横を向いて、固まるシオリ。


 なんか言えよ。

 なんだよ。

 どうして欲しいんだよ。


 …………可愛いな。


 ……でも。


「……ここまでに、しよう」

「…………え?」

「もう、十分だろ? もしこれで足りないなら……、その時にまた、これからどうするか、考えよう」


 わからない。

 なにがいけないのか。

 なにが変わるのか。


 どこまでいっていいのか。

 どうしたいのか。


 わからないけど、怖かった。


「…………へたれ…………」


「今はそれでいいよ」

「…………うん……。ありがと……。参考に、なると思う」

「そう? まあ……よくわかんないけど、ならよかった」


 本当に、なにがなんだか……。



 だが、俺たちの不可解な関係において、これはまだ始まりに過ぎなかった。










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