第4話 俺と幼馴染

 幼馴染の弥居子ちゃん。


 幼馴染どうしが結婚することは難しいという話は聞いていた。


 幼い頃は親しくても、思春期を迎えると、様々な理由でお互いの心が離れてしまい、結婚というところに到達するどころか、恋人になれないまま疎遠になってしまうという話。


 幼い頃に結婚の約束をしていたとしても、多くの場合、思春期を迎えると忘れ去られてしまうもの。


 しかし、高校に入るまでの俺はどちらかというと、弥居子ちゃんと既に疎遠になりかけていた。


 親しい間柄は、思春期を迎えても続いていたのだが、それが「恋」という意味でも好きというところまでにはなかなか到達していなかったのだ。


 転機は高校一年生になってから。


 一緒の高校に入った俺たち。


 弥居子ちゃんはもともと幼い頃からかわいかった。


 告白もされていたという話は聞いていた。


 既に小学校・中学校の段階で人気ものだった。


 そして、高校に入ってからは、そのかわいらしさに磨きをかけ、俺も驚くほどの美人に成長していく。


 才色兼備で、美術部に属する弥居子ちゃんの絵の腕前もなかなかのもの。


 告白する男子が続出し、付き合っている男子の噂まで聞こえてくる。


 それに対して俺はと言うと……。




 小学生の頃までの俺は、目立たない普通の子供だった。


 既に人気ものだった弥居子ちゃんに比べたら、天と地ほどの差だったのかもしれない。


 しかし、この時点での俺は、特に気にすることはなかった。


 幼馴染として、弥居子ちゃんは普通に接してくれていたのが大きいと思う。


 でも中学生になると、さすがにそうはいかなくなった。


 弥居子ちゃんが俺と親しくしていることについて、


「なんで桜里のような普通でうだつのあがらないやつが冬板さんと親しいんだ?」


「冬板さんと桜里はまるでつり合っていない!」


「普通な男でしかない桜里より俺がはるかにいい男だから、素敵な女子の冬板さんは

 俺と付き合うべきだ!」


 というような声が聞こえるようになってきた。


 また、弥居子ちゃんに対しても、


「わたしだったら、もっといい男子と親しくするわよね」


「冬板さんって、男子の趣味が悪いんじゃないかしら」


 という声が聞こえるようになってきた。


 それもわざわざ俺たちに聞こえるように言う。


 あざ笑うように言われたこともあった。


 弥居子ちゃんは、俺とは幼い頃から、それなりにおしゃべりはしていたものの、どちらかと言うとおとなしいタイプ。


 俺ほどではないが、人付き合いは得意な方ではなかった。


 その為、そうした声に対しては、反論はせず、極力聞き流す努力をしていたようだ。


 ただ、内心は決して穏やかではないだろうと思っていた。


 俺はその度に、弥居子ちゃんに対しては、


「気にすることはない。俺はいつでも弥居子ちゃんの味方だから」


 と言っていた。


 励ましになっていたかどうかはわからないところだが……。


 俺は中学校に入学した時点では、弥居子ちゃんのことを親しい幼馴染とは思っていても、それ以上の存在とは思っていなかった。


 弥居子ちゃんの方もそうだったと思う。


 俺たちに対する悪口は中学校一年生の九月頃から本格的に言われるようになったのだが、それ以降も幼馴染以上の意識がお互いに芽生えたわけではない。


 しかし、それとは別に、俺の心の中に、


「このままでは弥居子ちゃんがかわいそう」


 という思いが湧いてきていた。


 俺が弥居子ちゃんとつり合わないから、弥居子ちゃんに迷惑をかけている。


 俺は弥居子ちゃんとは幼馴染以上の関係ではない。


 でもこの状態からは脱却したい。


 その為には、俺が弥居子ちゃんとつり合うだけの存在になるしかない!


 そう思った俺は自分を磨くことにした。


 もともと病弱な方なので、運動の方ではなく、勉強の方で一生懸命努力する。


 弥居子ちゃんはトップスリーに入るほどの実力者。


 俺は三十位前後の成績なので、かなり高い目標となり、困難なことは予想された。


 それでも目指すしかない。

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