第65話
ソファーに横になってぼんやり考えた。
自分は真相をすくい上げることは出来るだろう。
しかし原因も犯人も明らかになっていて、それでいて傷ついている人がいる時、
私が本当に無力で、ただの流れていくだけの風景なのだと思い知る。
一人でいることが好きな私も、こういうときに限っては余計な考えばかり頭に浮かんでしんどくなる。
神谷、帰ってこないかなあ。
と不思議と寂しさのようなものが私の心に広がり、これじゃあ家主の帰りを待つ猫みたいじゃないかとひとり失笑する。
高らかな帰宅の声が聞こえたのは、ちょっきり1時間後のことだった。
「ただいまあー」
私はぱっと飛び起き、玄関までの廊下をツルツル滑りながら走った。
「おかえり」
神谷の前に立って、ぼそりと言う。
そんな私を見て豆鉄砲を食らった鳩のような表情の神谷だったが、やがて
「ただいま、宮さん」と嬉しそう微笑んで、私をぎゅっと抱きしめた。
私は今、美沙に抱き寄せられた陽太と、そっくり同じ気持ちになっているのだろうなと思うと、胸の当たりがむずむずした。
「ちゃんと買ってくれたワンピース着た」
神谷の腕から逃げ出し、私はくるっと一回転してみせる。
「どうだ」
「かわいいです。とってもよく似合ってます」
さすが僕の見立て、と言いながらご機嫌に私の手を引いてリビングへと戻る。
どうやら私が足枷をはずしていたことはバレていないのようで胸を撫で下ろすが、
同時に裏切ってしまったような罪悪感もふっと沸いた。
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