第60話

「って、神谷、何だこの部屋……」



「ああ、すみません。つい取り乱して……宮さんを探してたんです」



「ついって……だいぶ度を越してるように思うけど」



宮さんは苦笑いを浮かべ、床に散らかったものをひょこひょこと避けてソファーへと腰掛けた。



「さあ、じゃあ何から始めようか」


「なにって……」



てっきり、すぐにでも家を飛び出しかねないと思っていた僕には、



腰を落ち着けて、探偵よろしく推理する格好の宮さんが言う『始めよう』の言葉に



何が起こって何が始まるのか検討もつかなかった。




「ああ、私が逃げるか心配しているのか?」



あっけらかんと宮さんは言うので、僕は少したじろいで「ええ、まあ」と歯切れの悪い返事をした。



「お願いしてくれたら、いてあげる」



宮さんは、にこりと何故か楽しそうに口角を上げて僕を見上げた。



「私にここにいて欲しい?」



僕は無意識に宮さんの足元に落ちている足枷に視線が誘導された。


彼女は僕の視界に入り込んで、どうなの? と首を傾げる。



僕は決心して、真っ黒で月光がさす瞳に向かって言った。




「できることなら、ずっと一緒にいたいです」




「………そっか、よかろう」




宮さんは木漏れ日のような笑顔で笑った。


そんな無邪気な笑みを見たのはこの時が初めてだった。

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