第59話
『もしもし、私だが』
所長からの電話だった。
「お久しぶりですね」
『残念だが、いい報告じゃないんだ。
どころか、嫌な報告になる。犯人は宮を血眼になって探していることがわかった。絶対に、外に出さないでくれ』
所長の重々しい声を聞いて僕ははっとする。目が覚めたような、自分の使命を思い出したようなそんな気持ちになった。
僕は改めて冷静に答える。
「とはいってもですね……」
『すまない、こちらも入用でね。頼んだよ神谷くん』
「あっ、ちょっと!」
不吉な言伝を残して、電話はプツリと切られた。
しかしこの電話のおかげで、幾分か正気を取り戻せた。
僕が宮さんを囲い込む理由、それは決して私情だけとは言いきれない、本当の理由。
危うく見失いかけていたこの状況で所長からの電話は、救いの手にも思えた、けれども……。
「出すなって言われても、出ていかれそうなんです、所長……」
近くにいた宮さんにも内容が聞こえたのかもしれない。
目を瞑り、眠るかのごとく黙り込んでいた。
宮さんを静と動で分別をつけるなら、圧倒的に『動』の素質を持っている。
煌々と燃える信念に従って、時には危険をかえりみず、僕たちをゾッとさせるような執着を見せてきた。
しかし、今の宮さんはまるっきり『静』であって、さながら絵画から出てきたような神聖な雰囲気さえ纏っている。
僕はその姿にすっかり魅了され、目をそらせないでいた。
黄昏時を遠の昔に通り過ぎた、冷ややかな風がベランダから吹き、髪が揺れた。
まつ毛がふわりと持ち上がり、瞳がこの世界を真っ直ぐとらえる。
月明かりの雫が落とされ、宮さんの瞳に光を灯した。
「そうか……ようやく繋がった。
───神谷が私をここに連れてきた理由が」
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