第56話

僕はケーキをテーブルへ乱暴に置き、慌ててスマホを取り出して、玄関の扉の開閉履歴を確認する。




1番最近のもので、7時35分。僕が家を出た時のものだ。ということは、宮さんは玄関から外に出てはいない。




もしかすると、寝室で眠っているかもしれない。と扉を開ける。




布団をまくり上げ、ベッドの下、をひっくり返すように探す。





「いない………っ」




希望を残していた、書斎にも彼女はいなかった。



トイレにも。


風呂場にも。


キッチンにも。



飛び出してしまいそうな心臓は、叩きつけるように脈を打ち、呼吸を浅く、早く酸素を取り込もうとしている。




ひっくり返したように荒れた部屋の真ん中に、僕は立ちすくんだ。




「宮さん……宮さんっ」



ここにいてくれることを当たり前思っていた僕は相当な馬鹿だ。



彼女はいつも自由で、何にも縛られず、僕を残して、危なかろうが、好奇心の向くままに宮さんは動く。





まだ所長からはなんの連絡もない。





僕の元に戻ってこなくなって、会えないままになってしまったら、どうしよう。




どうしよう、どうしよう。宮さんが殺されちゃったら、どうしよう────。





お願いします。僕から宮さんを取り上げないで……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る