第54話
そこからは所長と僕の『頼む』『頼まれない』の攻防が行われたのだが、結局のところ、僕は引き受けることになった。
引き受けるとはいったが、匿っていられるとは限らない、とも。
僕だって宮さんには穏やかな生活をして欲しいと思うし、危ない目にあって欲しくは無い。
けれど、僕の部屋から逃げ出したいと思った時には、ちゃんと逃げられるということを宮さんに知っていて欲しい。
人権を損なうことはできるだけしたくない。
これは僕自身の精神を守るための自己防衛のようなもので、決して独占欲をむき出しに支配することは無い、との決意表明でもあった。
鎖を繋いでおいて、どの口が言ってるんだと非難されても仕方ないけれど、
僕としては『匿うこと』と『宮さんの自由』を天秤にかけた時に、ちょうど釣り合いがとれたのがこの条件だった。
匿う努力はするけれど、逃げるのは宮さんの自由。
ずるい僕はただ匿う装置でしかなく、絶対に逃がさないという確たる自信もなければ、危険な目にあうかもしれない宮さんを見て見ぬふりも出来ない、それだけの理由だった。
全ては僕のエゴに完結してしまう。
匿った結果、宮さんに敵意を向けたその人物の放たれる汚れた世界に、彼女が逃げ込むことになっても、僕は彼女の幸運を祈るだけだ。
でも、もし叶うのなら。僕を好になって僕と一緒にいたいと、この部屋で生活を共にしてくれるならどれほど良いことか。
────気を許してくれるなら……この手を取ってくれるなら、ちゃんと幸せにできるよ、君のこと。
一縷の望みにかけて僕は、宮さんを寵愛することに決めた。
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