第53話

そうやって抱きしめながら、僕は唯一吐いた嘘を思って不安になる。




所長に頼まれたことについてだった。




『宮を一ヶ月ほど匿っては頂けないだろうか』



所長はそう切り出して、それから理由について話そうとした。



『あ、待ってください』


僕は口をはさんで止めた。


『宮さんが話してくれない話をほかの人から聞くのは、ちょっと、僕はできないというか……』




渋る僕を所長は困った顔で宥める。




『しかし、それを聞かんことには君は頼まれてくれないだろう』



『まあ、そうですね。……だから、宮さんの過去にまつわる話を全部端折って、結論だけお願いできますか』



『よかろう。これは宮も知らないことなのだが』



そして所長はゆっくりと頷き、話し始めた。



『殺人犯が一人、出所する予定なんだ。


かつて宮に''本当はお前を殺したかった''と吐きながら手錠をかけられた人物だ。


服役中の様子は預かり知らないが、万が一にも宮が危険な目に合うようなことがあってはならない。


だから、しばらくこちらで調査している間、このことを秘密にしながら匿ってやることは出来ないだろうか……。


知ったらどう思うか……』



『……そうなんですね』



『その犯人が宮についてなんの怨恨も殺意もないと判断出来れば、すぐにでも神谷くんに一報入れよう』



『なるほど、理解は、しました。……でも、僕に務まるとは思えないんですが』




『いや、案外、君なら上手くやれそうだと見込んで頼んでいるんだ』




『とは言っても、相手は宮さんですよ?』




『まあ、そうなんだが……。


まずここでは到底無理なんだ。


実際、何度も失敗してるからな。


危ない事件が起こるたびに自ら首を突っ込むあの子を見かねて、

手錠とロープで縛って待機指示を出したこともあったが、あいつは簡単に抜け出してしまった』



『……』



僕は目を丸くして唖然とする。そんな落ち着きのない人が、やっぱり僕に大人しく匿われるなんて無理じゃないのか?



『不安な気持ちも分かる。


でも、神谷くんに会うために、あんなにはしゃいで出掛けるあの子は、ここに来てから見たことなかったんだ。


君のアプローチ次第では……と、勝手に期待したわけだが』

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