第12話

ここには特にめぼしいものはなく、大人しくしてるのも暇なので、正規ルートである扉からの脱出を試みることにした。




ながーーい鎖のおかげで扉まで十分届いた、まだまだ余裕だってある。



ノブに手をかけたら、ここもあっさり開いた。




「まったくなんだ、手応えないなあ」




このままではトントン拍子で玄関まで到達して、そしたら勝手に足枷も外れて、おじゃましましたと部屋に挨拶をしてから出ていけそうじゃないか。



私は呑気な足取りでリビングに出た。




明かりはついてない。




家主は不在なのだろうか、物音一つしない。

私が引きづる鎖の音だけが、やけにうるさかった。



綺麗に片付いた部屋だ。完璧すぎて違和感があるくらいだ、まるでモデルルームみたいだ。




玄関まで行ってみようとしたが、さすがに届かなかった。足首が痛くなるだけだ。

くわえて、勝手に足枷が外れたりすることもなかった。




鎖の鍵さえ見つかれば、出られそうなのに。





辺りを見渡してみると、さっきまでいた部屋の横にも扉がついていることに気づいた。



開けるとそこは書斎だった。壁面に本がぎっしり

と詰まっている。



文学が好きなのかと思ったら、ミステリーも多い。おっと、初版本なんかもある。




「天国に来てしまった。こんなレアな本が、こんなとこにあるなんて、趣味のいい誘拐犯だな」




私は犯人が姿を現すまでの間、本を読んで過ごすことにした。


ここにならいつまでだっていられそうだ。仕事だってしなくていいし、最高な気がしてきた。

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