第9話

「ここ肉うどんおいしいんですか?」



「………ぷはぁ。肉うどん? あぁおいしいよ、肉いっぱいで。まあ、それしか食べたことないけど」



「よく来るんですか」



「いや、小さい頃に何回か来た程度だ。常連じゃない」



「じゃあ今日はなんで?」



「勘だよ。君が来そうだなあって……そういえば名前なんて言うんだ?」





あ、そうかまだ名前を言ってなかった。

べつになんの対抗心もないけれど、僕は名刺を宮さんに差し出した。





「僕、神谷 颯太といいます。昨日、宮さんが言ったとおり、あそこの会社で働いてます」




「はあ、なるほど。やっぱりな、だと思った。………そんなことより、私のこと宮って呼ぶのか?」




「え、あ……すみません。ちょっと親近感のわく名前でついそう呼んでしまっただけで。馴れ馴れしかったですよね」





そうだよな、普通は苗字で呼ぶのが普通だ。

つい気がゆるんでいた。僕はうなだれながら頭を下げた。





「全然いいんだけど、なんか気恥ずかしくて……でも宮って呼んでくれていい」




宮さんは少し顔を赤らめて、もうすっかり空になっているコップを手に取って、口に近づけている。



照れ隠し、なのだろうか。



僕がピッチャーを持って「注ぎますよ」とジェスチャーすると、またぽっと頬が染まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る