第2話

肩口をハンカチで拭いてると、パタパタとやる気のない足音が近づいてきた。



「最悪だ。さっきの店に傘を忘れて来てしまった、何で私が、こんなに、走らないと、いけないんだ………」



そんなに全力で走ったわけではないだろうにマラソンを完走したあとくらい息を切らして駆け込んできた女性は、大きく息を吐いてしゃがみ込んだ。


小柄な身体をより小さく丸める。雨に濡れて寒そうだった。



「……だ、大丈夫ですか?」



ほっとく訳にもいかず、おずおずと声をかけた。



「あ、ああ。大丈夫……。走ったの数年ぶりだったから、ちょっと、運動不足なだけだ」



「そう、ですか」



「ほとんど事務所に引きこもってるから……」



「……はぁ。そうでしたか」



何を聞かされているんだ僕は。

意外としぶとく降り続ける雨を見上げ気の抜けた返事を返す。



しばらくして女性が口を開いた。



「というか……君の会社、目と鼻の先だろ?早く戻った方がいいんじゃないのか?

今日はずっと雨みたいだし、このままここに居たら昼休み終わってしまうよ」



女性は顔を上げて、こちらを伺うように口角をくいっと上げた。湿った前髪から真っ黒な瞳が覗く。



その表情があまりに妖艶で、つい目が離せなくなってしまってドキッとする。

いや、それよりも……。



「僕たちどこかで会ったことありましたっけ?」



この状況を言い当てられ、動揺したのかもしれない。

心臓がまた大きく鼓動した。



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